これは、「君の名は。」の新海誠監督の３年ぶりの新作映画。
　プロデューサーの川村元気、キャラクターデザインの田中将賀。音楽はＲＡＤＷＩＭＰＳと言う布陣は「君の名は。」と変わらずで、勿論、「君の名は。」の大ヒットの再来を期待される、東宝の今年の夏の勝負作です。

　離島から家出して東京にやって来た１６歳の少年、森嶋帆高。大都会東京は、少年が暮らすには厳しく、帆高は東京に来る途中で知り合った、怪しげなオカルト雑誌のライター・須賀圭介を頼り、彼の事務所で住み込みで働く事になる。、
　その年の東京は、夏になろうと言うのに連日冷たい雨が降り続いていた。
　そんな雨の東京で、帆高はひとりの少女・陽菜に出会う。彼女には、祈るだけで空を晴れに出来る不思議な能力があって……

　本作が公開となった東京では未だ梅雨が明けずに連日雨が降り続くと言う、正に天気までも味方につけたような映画ですが……新海誠の新作と言う期待に違わぬ、美しい映像世界は相変わらず見事。しかも、コンピューターを使い、詳細に描き込まれた風景をパノラマで見せるのには息を呑みます。勿論、雨の描写には定評のある新海誠だけに、雨に濡れた風景、雨粒と水飛沫の描写も文句なし、そして、それから晴れ間になって輝くような表情を見せる東京の街並みは、これこそ「現実を超えた」美しさ。特に、花火大会の夕暮れ、雲が切れて夕日が差し込むシーンには、それだけで鳥肌が立つ程の感動。その後の花火大会（花火の光の環の中にカメラが入って行く、実写では到底不可能な描写あり）の描写と合わせ、圧巻でした。
　また、音楽の使い方も上手く、音楽と共に一気に物語が加速する辺りは生理的にも心地よいです。
　アニメとしては例のない程のビッグバジェットとなるだけに、タイアップ商品も出るのですが、その登場も自然。あと、「君の名は。」から瀧と三葉を始め、主要登場人物がゲストで顔出ししているのも楽しめました。
　主演２人の声を宛てていたのは、十代の新人で、初々しさに加え、その自然さも好印象。そして、特筆すべきは本田翼で、これは最近の彼女のベストな演技と言えると思います。　
　
　ただ、この映画で弱点と思えたのは物語。
　帆高の家出の理由が、最後まではっきりしないと言うのにもひっかかるし、ポン引きや拳銃など、出す事も不要でしょう――故郷の島から、差し込む日差しを追いかけて来た帆高が、東京でも日差しを追いかけて、あの廃ビルに辿り着いた……とする方が自然ではないか、と。
　誕生日プレゼントに買った指輪の値段や、陽菜と弟の暮らしぶりにもリアリティがなく、差し込まれるギャグも滑り気味。正直、この脚本は練り直した方がよいのではないか、と思いました。
　あと、描写として、世界を壊す大雨を降らせる“天空の魚”を、少女を人柱として龍に追い払わせると言う描写が、「ひそねとまそたん」のクライマックスと重なって見えるのも残念でした。

　そして、物語内容としては、主人公らの関係性が世界を揺るがす「セカイ系」であるのですが、新海誠自身も「意見が分かれる」と認める、終盤の展開……陽菜を取り戻す為に「世界を変える」決断をしたこと。
　確かに、彼女にもう一度逢う為に世界をも変え、そして、そんな世界で生きて行く、と言う帆高の決意に感動する人がいるのは判ります……私だって、あと２０歳も若ければ、それに素直に感動出来たと思うのですが、そんな個人のエゴで、世界がどうなっても構わないと言うのは、正に、そうした人間のエゴが、この地球の気象を変えてしまいつつあるこの現在に語られる物語としてどうなのか、と疑問を覚えてしまいました。　
　

　（年　月　日　にて）

（作品データ）

　■監督・脚本・原作

新海誠

　■出演

森嶋帆高　・・・　醍醐虎汰朗

天野陽菜　・・・　森七菜

須賀圭介　・・・　小栗旬

夏美　・・・　本田翼

（その他のキャスト）
　吉柳咲良　　平泉成　　梶裕貴　　倍賞千恵子　　木村良平　　島本須美
　神木隆之介　　上白石萌音　　花澤香菜　　佐倉綾音　　市ノ瀬加那

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これは――　僕と彼女だけが知っている、世界の秘密についての物語

　■Ｌｉｎｋ

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