さらば愛しきアウトロー

　これは、名優ロバート・レッドフォードが、実在した伝説の銀行強盗、フォレスト・タッカーを演じる俳優引退作。
　タッカーの恋人をシシー・スペイセク、強盗仲間をダニー・グローヴァーとトム・ウェイツ、彼を追う刑事をケイシー・アフレックが演じるという超豪華キャストです。

　１９８０年代、アメリカ。拳銃をチラリと見せるだけで、決して銃を撃たず、誰ひとりとして傷つけない７４歳の銀行強盗フォレスト・タッカー。被害者の銀行員でさえ、彼のことを「いい人だった」、「紳士だった」と述懐する。そして、２年間で９３件もの銀行強盗を成功させたのだ。
　そんなフォレストの“仕事”の一部始終を目撃しながら、強盗事件だとは気付かなかったジョン・ハント刑事は、事件を担当する事になり、フォレストの足取りを追って行くのだが……

　この映画、銀行強盗と言う犯罪を描きながら、サスペンスでもミステリーでもありません。これは、俳優ロバート・レッドフォードを見せる映画であり、彼はフォレスト・タッカーと言ういささか風変わりな人物を魅力的に、そして楽しそうに演じています。
　ロバート・レッドフォードは、代表作の「スティング」を始め“犯罪者だけどナイスガイ”な役柄を多く演じていますが、この映画が描くフォレスト・タッカーとは正にそんな男。その生涯を振り返るシーンでは、レッドフォードの俳優人生と重なるような部分を垣間見せ、映画好きには懐かしく、彼のファンには堪らない場面を作っているのも面白い所。
　そうした意味で、これはロバード・レッドフォードの俳優人生の正に集大成と言える映画になっていますし、そんな映画を、こんなにも自然体に、軽妙にまとめてしまうのも彼らしい。

　そして、この映画を、クリント・イーストウッドの「運び屋」と比較すると興味深いです。
　どちらも実在の人物でありながら、イーストウッドが演じた男が、生き方を後悔し、家族に許しを請うのに対し、レッドフォード演じるフォレストは、最後まで後悔する事なく、「これだから止められない」と笑顔で強盗を繰り返し、逮捕されては脱獄するの繰り返し。家族からは許されないけれど、そんな事、まるで意に介さない人物と描かれます。
　そんな「止められない」男を演じて、レッドフォードは自身の俳優人生にピリオドを打ち、イーストウッドは恐らく映画製作を止められないでしょう。そんな対比も面白い、と思いました。
　

　（２０１９年　７月１５日　Ｋｉｎｏ　Ｃｉｎｅｍａ　横浜みなとみらいにて）

（作品データ）

　■監督・脚本

デビッド・ロウリー

　■出演

フォレスト・タッカー　　・・・　ロバート・レッドフォード

ジュエル　・・・　シシー・スペイセク

ジョン・ハント　・・・　ケイシー・アフレック

（その他のキャスト）
　ダニー・グローヴァー　　トム・ウェイツ　　チカ・サンプター

　■コピー

１６回の脱獄と銀行強盗を繰り返し、
誰一人傷つけなかった７４歳の紳士
フォレスト・タッカーのほぼ真実の物語。

　■Ｌｉｎｋ

https://longride.jp/saraba/

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