海獣の子供

　これは、「リトル・フォレスト」の五十嵐大介の同題漫画を、ＳＴＵＤＩＯ４℃がアニメ化した海洋冒険スペクタクル。
　監督は「映画ドラえもん」シリーズを手掛けた渡辺歩。声の出演は芦田愛菜を始めとする豪華キャストで、主題歌を米津玄師が担当したことも話題になりました。

　夏休みの初日。琉花は、部活のハンドボールの練習試合でチームメイトとトラブルを起こし、顧問から部活禁止を言い渡されてしまう。
　すっかり意気消沈した琉花は、別居中の父親が働く水族館を訪れるが、そこで海という名の不思議な少年と出会う。海は兄の空と一緒に、赤ん坊の頃からジュゴンに育てられたという。そのため肌が乾燥や日光に弱く、水の中にいる事を好むのだった……

　原作は単行本５巻になる物語で、映画はそれを２時間に圧縮して描いています。コミックの映画化は無理なく出来るのが単行本３巻程度と言われており、この映画版も中盤以降は、ダイジェスト版の感が強く、原作未見なこともあって、壮大なドラマを奏でる物語を理解出来たとは言えない状態でした。
　その一方で、この映画はアニメーションとしては素晴らしい出来。
　がさがさした、到底アニメ向きとは思えないタッチで描かれた五十嵐大介の絵を、フルカラーのアニメで見事に動かしています。ロケハンにより、精緻に描かれた背景と、動物や魚たちのリアルな動きにも文句のつけようがありません。物語は端折っている一方で、印象的なシーンはしっかり尺をとって見せるなど、原作の「絵」を見せる、と言う事についてはこだわりを見せており、原作漫画の絵そのまま、原作ファンをも納得させるようにアニメ化する、と言う点において、本作は正に頂点ではないかと思います。

　そして、本作の問題は、これはもう作品選択に尽きます。
　この映画の作り、これを楽しめるのは原作のファンでしょう……既に知っている物語が、大スクリーンで描かれる事に満足し、駆け足となっている物語は脳内で補完出来ますから。一方、原作未見だったら、まず物語を理解出来ないでしょう。
　だからこそ、多くの人が知る作品であれば、これは多くの人に受け入れられるものとなったでしょうけど、いくら高い評価を受けているとは言え、五十嵐大介の漫画は、多くの人が知るものとは言い難いのではないでしょうか？
　いかにもＳＴＵＤＩＯ４℃らしい、素晴らしいアニメーションではありますが、作品選択と描く世界もまたＴＵＤＩＯ４℃らしい、と言ってしまえばそれまでなのですが。　
　

　（２０１９年　６月　７日　チネチッタにて）

（作品データ）

　■監督

渡辺歩

　■出演

安海琉花　・・・　芦田愛菜

海　・・・　石橋陽彩
空　・・・　浦上晟周

（その他のキャスト）
　森崎ウィン　　稲垣吾郎　　蒼井優　　渡辺徹　　田中泯　　富司純子

　■コピー

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　　言葉では交わさない

　■Ｌｉｎｋ

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