これは、佐伯泰英原作の時代小説シリーズを、松坂桃李主演で映画化したもの。
　監督は、「空飛ぶタイヤ」の本木克英。

　幼馴染の河出慎之輔、小林琴平と共に、３年ぶりに江戸から故郷へと戻った豊後関前藩士の坂崎磐音。
　だが、ある事件により慎之輔と琴平を失った磐音は、琴平の妹で許嫁だった奈緒を残して脱藩、今は江戸で浪人暮らしをしている。
　老舗のうなぎ屋で見習い板前として働く磐音は、その包丁さばきと優しい性格で周囲から信頼されていたが、長屋の家賃にも事欠く程の貧乏暮らし。見かねた大家から、両替屋の今津屋の用心棒の仕事を紹介される。
　だが、その事で、磐音は新貨幣をめぐる陰謀に巻き込まれていく……

　これはなかなかよく出来た時代劇。
　磐音を演じた松坂桃李は、月代を剃っている時にはいささか不自然さを感じるものの、浪人となって総髪にした後は――まぁ、見慣れた松坂桃李になってしまうのですが――彼ならでは柔らかな物腰の好青年っぷりがいい感じです。ただ、その得意技である“居眠り剣法”の凄さを見せる場面がなかったのは物足りないなぁ、と――琴平をこれで斬った事から、技を自ら封じていて……と言うようなエピソードが欲しかった所です。
　また、長屋の大家、金兵衛役、中村梅雀と、その娘役の木村文乃、賑やかし担当のこの２人が芸達者故にちょっと浮いてしまっているのは気になりました。
　尚、豊後関前藩老中を演じていたピエール瀧の逮捕により、その役は奥田瑛二によって再撮影し、差し替えられたのですが……この二面性のある役を演じるのはむしろ奥田瑛二の方がよかったと思える程で違和感はありませんでした。

　映画としては、冒頭の磐音の故郷で起きた事件が余りに重く、彼が浪人となった経緯を描く以上の存在感を示してしまっており、それ故に、今回の中心のエピソードとなるはずの新貨幣をめぐる陰謀劇が軽く感じられると共に、それを磐音が鮮やかに解決して見せる展開にも爽快感がありません。
　これを原作小説同様、シリーズものにするのであれば、今回は、磐音と奈緒と言う若いふたりに焦点を当て、ふたりが運命に翻弄され、江戸に流れ着く悲劇に絞って描いた方がよかったように思いました。


ＰＳ
　これは映画の責任ではないのですが、奈緒の花魁姿を見せてしまう予告編は完全にネタバレ。これはさすがに止めて欲しかった部分です。　
　

　（年　月　日　にて）

（作品データ）

　■監督

本木克英

　■出演

坂崎磐音　・・・　松坂桃李
小林奈緒　・・・　芳根京子

小林琴平　　 ・・・　柄本佑
河出慎之輔　・・・　杉野遥亮

金兵衛　・・・　中村梅雀
おこん　・・・　木村文乃

（その他のキャスト）
　佐々木蔵之介　　奥田瑛二　　佐戸井けん太　　比留間由哲　　和田聰宏　　高橋努　　荒井敦史
　南沙良　　ベンガル　　桜木健一　　水澤紳吾　　阿部亮平　　永瀬匡　　川村ゆきえ　　宮下かな子
　山本浩司　　有福正志　　菅原大吉　　陣内孝則　　橋本じゅん　　早乙女太一　　中村ゆり　　波岡一喜
　石丸謙二郎　　財前直見　　西村まさ彦　　谷原章介　　柄本明

　■コピー

この男、切ないほどに、強く、優しい。

　■Ｌｉｎｋ

http://iwane-movie.jp/

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