これは、芸人・松元ヒロによる一人語り「憲法くん」をモチーフに日本国憲法の原点を見つめ直すドキュメンタリー映画。
　監督は、「止められるか、俺たちを」の脚本を手掛けた、井上淳一。松元ヒロに代わり、名優・渡辺美佐子が「憲法くん」を演じます。
　　
　この映画、日本国憲法の根幹に、太平洋戦争の敗戦を踏まえた「戦争反対」があるとし、それを代弁するものとして、渡辺美佐子らベテラン女優が３３年に渡って公演を続けて来た原爆朗読劇に懸けた想いを語ると言う映画となっています。
　確かに、渡辺美佐子らによる原爆朗読劇、それを語り継ごうとする想い――この朗読劇を渡辺が引き受けるに至った動機として、原爆の犠牲者１４万人のうちに、彼女の特別なひとりが含まれている、と言う事実には胸を突かれるものがあります。
　「数字」や「記録」ではなく自分と繋がる「人」がそこにいた、と言う事……そして、人が人である為には、気持ちが繋がる人がいなければならないのです。言葉でも、記録でもなく、人の気持ちが……だからこそ、そんな想いを伝え、残して行く為には、人として語り継ぐべきものである、と言うのにははっとさせられました。
　このエピソードに力があるが故に、映画の軸となってまとめられたのは理解します。
　ただ、これを以て憲法を語るのは、いささか的の絞り過ぎではないでしょうか？
　日本国憲法は９条だけではありませんし、そもそもは主権を国民が取り戻す、と言う理想を掲げ作られたものであるはずです。
　「憲法を語る」映画としては、話題をずらされたような感じで、最後まで違和感が残りました。

　また、「戦争反対」をメインテーマとするならば、映画コピーの
　「わたしたちは世界でいちばん強くて素晴らしい武器をもっている」
　と言う日本国憲法――第９条に代表される“平和憲法”としてのあり方についての言及も必要ではないでしょうか。
　それを、明治時代の大日本国憲法に押し戻そうと言う、時代に逆行する動きは非難されるものであるのは確かです。だからこそ、井上淳一監督には、この映画は何を主張し、誰に何を訴えたいのかを強く打ち出して欲しかったようにも思いました。　
　

　（年　月　日　にて）

（作品データ）

　■監督

井上淳一

　■出演

憲法くん　・・・　渡辺美佐子

（その他の出演）
　高田敏江　　寺田路恵　　大原ますみ　　岩本多代　　日色ともゑ　　長内美那子
　柳川慶子　　山口果林　　大橋芳枝

　■コピー

わたしたちは世界でいちばん強くて素晴らしい武器をもっている

　■Ｌｉｎｋ

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