愛がなんだ

　これは、角田光代による同題の恋愛小説を今泉力哉監督が映画化したもの。主演は岸井ゆきの。

　２８歳のＯＬ、山田テルコは、５ヶ月前に一目惚れしてからと言うもの片思いする田中守のことを最優先にしている。呼び出しがあったら仕事も放り出して駆けつけるので、会社もクビになってしまった。しかし、守はテルコを恋人とは思っておらず、むしろ、世話を焼こうとするテルコを疎ましがるようになり、テルコへの連絡も途絶えてしまう。
　そんなテルコを友人の葉子は呆れた目で見ているが、その葉子にも、恋人未満の奇妙な関係の男友だちのナカハラがいるのだった。
　暫く後、再び電話して来たマモルの元に喜び勇んで駆けつけたテルコだが、マモルは年上でがさつなすみれに恋をしており……

　これは、これまでにない形で、“人を好きになる”と言う事を描いた映画。
　ただ、傍にいたい、何でもして上げたい、と言う気持ち――愛などではなく、恋が近いかもしれないけれど、それとも違う。テルコ曰く「マモちゃんになりたい」と言う、人からは「気持ち悪い」と言われたりもするような、執着と言うか、一歩間違えればストーカーになってしまうような、得体の知れない“もの”に囚われたテルコを描いて行きます。
　そんなテルコを演じた岸井ゆきのが魅力的。
　猫目で口が大きく決して美人顔ではなく、スタイルはＮＨＫの朝ドラで１４歳の役を演じて違和感なしの幼児体型……どちらかと言うと、小動物的な魅力で、なるほど、これは恋愛対象からは外れるかも、と言うテルコに説得力を持たせて演じています。これは間違いなく、彼女の代表作になるでしょう。
　ただ、守を演じた成田凌は、ちょっとイケメンに過ぎるかな、と――なにしろ、守はベタ惚れしているテルコから見ても「マモちゃんは手だけは綺麗だ」と言う男のはずなので。
　また、すみれ役は江口のりこだけど、この役にはがさつだけどイイ女、に説得力が欲しかったような……真木よう子などハマリ役のように思うのですが。

　また、テルコとマモちゃんの関係を裏返したような葉子さんとナカハラの関係を対比させて描く物語も巧みです。
　そんな“好き”な気持ちに気づいたナカハラの想いは切なく、気づいてはいるけれど、それを認めず、最後の最後まで“不気味ちゃん”としてテルコを動かす”好き”な気持ちの行き先にハラハラさせられる、風変わりだけど一級の恋愛サスペンス。これは、人気となっているにも納得しました。　
　

　（年　月　日　にて）

（作品データ）

　■監督

今泉力哉

　■出演

山田テルコ　・・・　岸井ゆきの

田中守　・・・　成田凌

葉子　・・・　深川麻衣

ナカハラ　・・・　若葉竜也

すみれ　・・・　江口のりこ

（その他のキャスト）
　穂志もえか　　中島歩　　片岡礼子　　筒井真理子

　■コピー

全部が好き。
でも　なんでだろう、
私は彼の恋人じゃない。

　■Ｌｉｎｋ

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