これは、ペネロピ・フィッツジェラルドの小説を「あなたになら言える秘密のこと」のイザベル・コイシェ監督が映画化したもの。

　１９５９年、イギリス。海辺の小さな町で暮らす未亡人フローレンスは、本屋を開く夢を実現するため、空き家だったオールドハウスを買い、修繕して開店準備を進める。
　だが、これを心好く思わないのは、町の有力者、ガマート夫人。彼女はオールドハウスを芸術センターにしたいと考え、書店の計画を妨害する。
　何とか本屋の開業にこぎつけたフローレンスだったが、ガマート夫人は諦めない。なりふり構わぬ妨害工作と嫌がらせが続く中、孤立無援のフローレンスの味方は、屋敷に引きこもっている読書家で偏屈な老人エドマンドと、店の手伝いをしてくれる少女クリスティンだけだった……

　　フローレンスを演じるのはエミリー・モーティマー。若作りをしていた「メリー・ポピンズ・リターンズ」の時に比べ、年相応の落ち着い様相ですが、そんな彼女がかわいく見えてしまう辺り、自分も歳をとったなぁ、と……
　また、凜とした英国紳士の出で立ちながら、純情な少年のようなプラトニックな想いを貫くエドマンドを演じたビル・ナイはさすが。これぞ名優と言うものでしょう。

　これは、ひとりの女性が、夢をかなえ、そして夢を奪われる物語。
　映画ポスターには「本と過ごす時間、そしてちょっとの勇気があれば人生は豊かになる」とあり、ほのぼのヒューマンドラマと思わせますが、町の有力者に睨まれ、住民の殆どを敵に回し、挙げ句には法律まで作られて行政までが敵に回る……そんな絶望的な状況でも、夢の為には一歩も退かない、と言う彼女の勇気は「ちょっと」などと言うものではありません。
　徐々に追い込まれ、居場所をなくしていくフローレンスには胸を締め付けられますし、映画の雰囲気も寒々として、これはかなりビターな印象。確かにイギリス映画らしくはあるのですけど。
　映画は切ない終わりを迎えます。最後の最後にクリスティンが行った逆襲も胸の空くものではありません。それでも、フローレンスの勇気はひとりの少女の心を動かし、人生を変えた――そんな、胸を打つエピソードは用意されるのですが、後味は決してよくなかったです。　
　

　（年　月　日　にて）

（作品データ）

　■監督・脚本

イザベル・コイシェ

　■出演

フローレンス・グリーン　・・・　エミリー・モーティマー

エドモンド・ブランディッシュ　・・・　ビル・ナイ

ガマート夫人　・・・　パトリシア・クラークソン

ナレーション　・・・　ジュリー・クリスティー

（その他のキャスト）
　

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私と本との一期一会

本と過ごす時間、そしてちょっとの勇気があれば人生は豊かになる

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