運び屋
THE MULE

　これは、「グラン・トリノ」以来１０年ぶりとなる、クリント・イーストウッドの監督・主演映画。
　撮影時８７歳のクリント・イーストウッドが演じるのは、同じ８７歳でメキシコ麻薬カルテルの運び屋となった男です。

　アール・ストーンは、デイリリーと言う花の栽培で一世を風靡した男。花のコンクールで優勝を欲しいままにした“巨匠”だが、家庭と家族を大事にする事無かったため、妻とは離婚、娘には会っても貰えない。
　やがて、インターネット通販に押され、破産したアールは自宅と農場を差し押さえられてしまう。
　そんな時に、“クルマの運転をして荷物を運ぶだけの簡単な仕事”に誘われて引き受ける事に……だが、それはメキシコ国境の町からシカゴに麻薬を運ぶ、運び屋の仕事だった……

　これはニューヨークタイムズに掲載された「９０歳の運び屋」の記事を元にした物語。最近、クリント・イーストウッドは実話ものばかりを作っていますが、これは珍しく、元となったエピソードこそあるものの、物語として脚色されたオリジナルストーリーになっています。
　そうして描くのは、アールと言う主人公に重ねられた、クリント・イーストウッド自身の物語でしょう。
　社会的には大きな成功を収め（モデルとなった男はデイリリーの巨匠としてホワイトハウスに招待された事もある人物です）、しかし、好き放題に暮らし、家族を顧みなかった男……それ故に９０歳になってまで、運び屋と言う綱渡り稼業をやるしかなかった男に、どうやらクリントは共感したようなのです。
　ですから、これはクリント・イーストウッド自身の物語なのだ、と思って見ると面白い。
　確かに、クリント・イーストウッドは映画界では押しも押されぬ巨匠ですし、家庭と家族を大事にしていなかったのも同様――映画では娘役を実娘のアリソン・イーストウッドが演じていますが、彼女の誕生後、クリント・イーストウッドは愛人と同棲しており、殆ど育てていないのだとか……
　ハードボイルドイメージの強いクリント・イーストウッドですが、多くの映画で女好きと言うか、女にだらしのない男を演じており、この映画でも同様――むちむちグラマーなラテン美女２人とのベッドシーン（恐らく監督権限の役得）を演じるなど、８７歳にしてご立派なもの。
　まぁ、ここまで記事になっているとは思えないので、こうした部分はクリント・イーストウッドの創作でしょうが……この自分の投影された映画でコレとは、その生き様と願望が見えるようで……
　（しかし、このシーンの他、コールガールを呼ぶシーンでも２人を呼んで３Ｐでやってます……早撮り・ワンテイクのクリントだけに、１人１ショットの為に２人呼んだのでしょうかね）
　また、人たらしで、強面の麻薬カルテルの面々も手懐けてしまう“人たらし”な様子と、その一方での、家族に対する冷淡さも興味深いですし、ハードボイルドから一転、カーラジオから流れる音楽に合わせてのひとりカラオケに、口を開けば毒舌に冗談ばかり、と言うお喋りぶりを見せるなど、久々にスクリーンで見るクリントの思わぬ一面も楽しめます。

　映画の方は、予告編や設定から思うようなハードボイルドなクライムサスペンスではなく、家族と人生を描くヒューマンドラマ。それにしても、最後、仕事を放り出して妻の臨終の床に駆けつけたアールを、家族どころか、麻薬カルテルまでもが許してしまう、と言う辺り、甘口なのが物足りないのですが……
　ただ、前述したクリント自身を重ねた内容、そして、“弟子”のブラッドリー・クーパーに伝えるメッセージなど、見所も充分。やはり、さすがの１本です。　
　

　（年　月　日　にて）

（作品データ）

　■監督

クリント・イーストウッド

　■出演

アール・ストーン　・・・　クリント・イーストウッド

（その他のキャスト）
　ブラッドリー・クーパー　　ローレンス・フィッシュバーン　　マイケル・ペーニャ　　ダイアン・ウィースト　　アンディ・ガルシア　　
　イグナシオ・セリッチオ　　アリソン・イーストウッド　　タイッサ・ファーミガ

　■コピー

人は永遠には走れない。

　■Ｌｉｎｋ

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