これは、「パタリロ！」の魔夜峰央の同名コミックを「テルマエ・ロマエ」の武内英樹監督が映画化したコメディ。
　原作は、魔夜峰央が埼玉在住であった１９８２年に発表され、その後、横浜への転居により継続出来なくなり、未完となっていたのが近年、発掘・再評価され一部で話題となっていたもの。
　それを実写映画にすると言う事でどうするのか、と思っていたのですが……

　娘の結婚に向け両家顔合わせの為、埼玉県熊谷の実家から会場に向かう途中、ラジオから流れて来た「埼玉にまつわる都市伝説」を紹介する番組。
　その内容は奇想天外なものだった――かつて、埼玉県民が理不尽な差別を受けていた時代、東京の超エリート校・白鵬堂学院に、アメリカからの転校生・麻実麗がやって来る。
　麗の優雅な物腰に、在校生たちは夢中。都知事の息子で生徒会長の壇ノ浦百美は当初反発したものの、やがて彼に惹かれていくことになる。
　だが、実は麗は、埼玉からある目的を持って東京に侵入した埼玉県民で……

　原作は、荒唐無稽で悪ノリ著しい話なのですが、映画はこれをラジオ番組から流れる劇中劇とし、映画中の時間から数十年前の事に起きた秘史で、今や都市伝説となっている……と位置づけています。
　これはなかなか面白い工夫。実際、今の若い人にしてみれば、狂乱のバブル期など別世界の物語と同様で、現実味などありはしません。この映画は、そんな感覚を逆手に取り、荒唐無稽な物語を“あったかもしれない過去”として描きます。
　現実パートでは、ＡＫＢでは「塩対応」で知られた島崎遥香に毒舌を吐かせ、演じる俳優の出身地と設定を合わせて、リアルな地方差別を演出。
　そんな「地方あるある」ネタを拡大する形で、原作の物語世界を形にして行きます。
　このパートで、主役となるのは、二階堂ふみ演じる百美ではなく、４５歳になるＧＡＣＫＴが演じる転校生・麻実麗。これが違和感ないと言う恐ろしさ……と言うよりも、魔夜峰央の耽美キャラを具現化するにはこの人しかいない、と言うパーフェクトなハマりっぷり。しかも、その父が京本正樹と来るか！
　あと、伊勢谷友介のノリノリの演技も見逃せません――この人は特殊メイクなしで悪魔の表情が作れるんだなぁ……
　また、百美役を二階堂ふみとして、ボーイズラブな展開を（見た目としては）ノーマルに近づけ、一般に受入れ易くするようにするなど、決してノリだけではない、工夫も見られます。

　そして、この物語の中心となる、被差別を受ける埼玉に対する「埼玉ディス」ですが、これが意外にも厭らしくない。まぁ、ここまで突き抜けた描写になってしまうとギャグにしかならない、と言う部分もありますし、他者を貶める事は、それだけ己に跳ね返る訳で、「埼玉ディス」が同時に東京の鼻持ちならなさや、狭量っぷりを示す、と言うのが判り易い構図となっているからです。
　また「埼玉ディス」もそうですが、千葉、茨城も相当なもので、群馬など、先史時代とされてるんですよ……そんな「地方ディス」ネタによる話の広げ方も上手い。

　完結してない話に決着をつける、ラストの埼玉ｖｓ千葉合戦（有名人バトルには大笑い）から新宿決戦で盛り上げ、ラストには埼玉愛を謳い上げる、意外にも感動的なラストを用意して……なるほど、これは埼玉県の映画興行記録を塗り替える大ヒットとなったと言うのにも納得です。　
　

　（年　月　日　にて）

（作品データ）

　■監督

武内英樹

　■出演

壇ノ浦百美　・・・　二階堂ふみ

麻実麗　・・・　ＧＡＣＫＴ

（その他のキャスト）
　伊勢谷友介　　ブラザートム　　麻生久美子　　島崎遥香　　成田凌　　中尾彬　　間宮祥太朗　　
　加藤諒　　益若つばさ　　武田久美子　　麿赤兒　　竹中直人　　京本政樹　　ＪＡＧＵＡＲ

　■コピー

空前絶後のディスり合戦開幕！

　■Ｌｉｎｋ

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