これは、ゴシック・ホラーの傑作であり、あの“フランケンシュタインの怪物”を生み出した１９世紀イギリスの怪奇小説「フランケンシュタイン」の作者であるメアリー・シェリーの人生を描く伝記映画。

　１９世紀、イギリス。女性思想家の娘として生まれ、怪奇小説を愛するメアリー。
　そんなメアリーが１６歳の時、彼女は“異端の天才”と称される詩人、パーシー・シェリーと出会い、恋に落ちる。だが、パーシーには妻子がおり、不誠実な彼に不信感を持つ両親は交際を許さなかったが、ふたりは、情熱に身を任せて駆け落ちする事になる。
　それはパーシーの父親も知る事となり、勘当されたパーシーはたちまち生活に困窮。そんな生活の中、メアリーは女の子を出産するが、借金の取立てから夜逃げした先で娘は命を落としてしまう。
　そんな中、失意のメアリーは義妹の伝手で、夫と共に放蕩者としても知られる詩人、バイロン卿の別荘に滞在することになるが……

　この映画の主演はエル・ファニング。１９世紀ファッションも着こなして、最早無敵に近い美少女っぷりで、「マイ・プレシャス・リスト」では主演のベル・パウリーも引き立て役にしかなっていないような――そんな彼女のラブストーリーとしても観る事が出来る本作ですが、監督のハイファ・アル＝マンスールは、未だに女性の社会的地位の低いサウジアラビア初の女性映画監督で、前作「少女は自転車に乗って」と同様、女性の社会的地位の低さや、周囲の視線などから来る生き辛さを描こうとしています。
　それを、メアリーの人生に重ね合わせると共に、そんな人生を歩んで来たからこそ生み出した“怪物”の想い――誰かに認めて欲しい、受入れて欲しい、そして、愛して欲しい……と重ねて見せる視点が秀逸。女性に対する様々な差別と、それを生む偏見……これは現在にも通じる部分があり、この物語を現在送り出す理由となっているように思いました。
　また、いかなる抑圧があっても、少女らの心まで押し潰す事は出来ないとする一方で、男たちの我が儘と暴力が時にグロテスクに描かれるのもハイファ監督ならではないでしょうか。
　
　そして、この映画、歴史に残る作品を生み出す為、己の言葉を絞り出す為には、如何なる才能があったとしても、ここまで犠牲を払わないとならないものなのか……そんな現実に、創造することの苛烈さをあらためて思い知らされました。　
　
　

　（２０１８年　１２月１６日　シネマジャック＆ベティにて）

（作品データ）

　■監督

ハイファ・アル＝マンスール

　■出演

メアリー・シェリー　 ・・・　エル・ファニング
パーシー・シェリー　・・・　ダグラス・ブース

クレア・クレアモント　・・・　ベル・パウリー

バイロン卿　・・・　トム・スターリッジ

（その他のキャスト）
　スティーヴン・ディレイン　　ジョアンヌ・フロガット　　ベン・ハーディ　　メイジー・ウィリアムズ

　■コピー

「不幸」に抱かれ、「死」に口づけられ、世紀の傑作を産んだ。

　■Ｌｉｎｋ

https://gaga.ne.jp/maryshelley/

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