恐怖の報酬
【オリジナル完全版】
SORCERER

　これは、１９５３年のＨ・Ｇ・クルーゾー監督作の同題のフランス映画を、「エクソシスト」のウィリアム・フリードキン監督がリメイクしたサスペンス映画のオリジナル版。
　本作は１９７７年に公開されたのですが、同年に「スター・ウォーズ」が公開されるなど、明るく、ハッピーエンドを迎える娯楽作に切り替わりつつアメリカで、“アメリカン・ニューシネマ”の色合いを残す本作は興行的には失敗。オリジナルから３０分も短いインターナショナル版で世界展開されるも揮わず……その後、紆余曲折あって、フリードキン監督が自身「最高傑作」とするオリジナル版の公開となりました。

　南米の奥地にある油田で爆発事故が発生。油田火災を鎮火するには爆薬による爆風で消すしかないが、油田から３００ｋｍ離れた村にある石油会社の倉庫にあったダイナマイトは古くなり、ニトログリセリンが染み出して、強い衝撃を与えたら爆発する危険性があった。
　その状態での空輸は危険すぎると判断され、高額の報酬と引き替えにトラックで運搬する命知らずの猛者が募られた。選ばれたのは、ドミンゲス、セラーノ、カッセム、そしてマルケスと言う、何れも流れ者の４人。
　４人には、それぞれこの辺鄙な村に辿り着いた理由があったが……

　１９７７年の日本公開版は未見、今回初めての鑑賞となります。
　映画は、冒頭でトラックに乗り込む４人の過去を描き、それから村での暮らしを描いてから事故が発生、と言う時系列順の展開で、変に回想形式で過去を振り返ったりしない為に判り易さはありますが、物語が動き出すまでが長い長い。爆発事故までに１時間近くかかり、しかも、描写自体、説明を極端に省いたハードボイルドタッチ。映画は「絵で語る」のだから余分な説明は不要とする姿勢には一理ありますが、これが一般客には通るとは限りません。
　インターナショナル版が（フリードキン監督には無断で）ここを大幅に切ったのも判りますが――確かに、ここを切られたら、監督の意図した「運命の神秘」は描けません。
　その意味では、このオリジナル版は、そうした過去の行い、それらがあって今があり、そして何れも「運命」によって定められている……とする作品テーマが形になったものであり、これが単なる緊迫場面を売りにするだけのサスペンス映画ではない、と言う事を示しています。

　そうしたテーマを抱える文芸的内容だけでなく、映画的な見せ場も十分。代表的なのは激流にかかる吊り橋をトラックで渡るサスペンスで、これには手に汗握らされる事必至でしょう。
　とにかく、ＣＧのない時代で、撮影もセットではなく実際のジャングルの中でやっているだけに、そのリアリティと、迫力は今観ても半端ではありません。
　また、ギャングの“逃がし屋”だったドミンゲスがハンドルを握り、パレスチナ人の爆弾魔だったカッセムが道路を塞ぐ巨木を爆破、モサドの殺し屋であるニーロも反政府ゲリラ相手に逆転劇を見せるなど、それぞれに特技と見せ場がある、と言うアクション映画の定石展開も押さえてはいます……ただ、何れもカタルシスを感じさせてくれない辺りが、アメリカン・ニューシネマ風ではあったりするのですが。
　
　そんな風にクライマックスでのカタルシスはなし、４人を待ち受ける運命とラストもまた爽快感のないもので、この映画が１９７０年代のハリウッドのアメリカン・ニューシネマの流れの末端にあるのは確かでしょう。
　なるほど、これは興行的には苦しいだろうな、と言う印象でしたが、現在の目で観ても見応えのある映画なのは確かだと思います。　
　

　（年　月　日　にて）

（作品データ）

　■監督・製作

ウィリアム・フリードキン

　■出演

ジャッキー・スキャンロン　“ドミンゲス”　・・・　ロイ・シャイダー

ヴィクトル・マンゾン　“セラーノ”　・・・　ブルーノ・クレメル

ニーロ　・・・　フランシスコ・ラパル

カッセム　・・・　アミドゥ

（その他のキャスト）
　

　■コピー

密林の果てに、地獄を見た――。

　■Ｌｉｎｋ

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