暁に祈れ

　これは、英国人ボクサー、ビリー・ムーアの自伝小説を「ジョニー・マッド・ドッグ」のジャン＝ステファーヌ・ソヴェール監督が映画化したもの。
　出演は「きみへの距離、１万キロ」のジョー・コール。

　英国人ボクサーのビリー・ムーアは、訪れたタイで麻薬にハマり、闇社会で行われるムエタイの試合に出場するようになっていた。
　だが、そんな自堕落な暮らしは、警察に逮捕され、チェンマイの刑務所に収監されて終わる。
　言葉も分からず、囚人たちが溢れる床で眠り、看守からは非人道的な扱いを受ける……そこは、レイプや殺人が横行する生き地獄だった。
　そんな中で、刑務所内にムエタイチームがある事を知ったビリーは何とかそこに潜り込み……

　この映画、廃棄された実在の刑務所（ただし、一部はフィリピンのようですが）で撮影、出演者の殆どは元受刑者（なので刺青もメイクではなく本物）で、実体験に基づいて刑務所暮らしをリアルに再現しています。
　ジャン＝ステファーヌ・ソヴェール監督は、「ジョニー・マッド・ドッグ」でも本物の少年兵を起用するなど、再現ドキュメンタリーに近い手法によりリアルを追求していましたが、本作でもその辺りに抜かりはありません。
　また、本作では台詞の殆どがタイ語ですが、タイ語には字幕が入らず、これまた異国で刑務所にぶち込まれたビリーの体験を追体験させるものとなっています。
　
　物語としては、そんな地獄のような刑務所で、ボクシングのスキルを活かしてムエタイに打ち込む事で救われた……と言うようなものを予想していると裏切られます。
　確かに、そうした部分はあり、収監されたレディボーイ（女子刑務所には収監出来ないのですが、男性の刑務所でも基本、隔離されている）との恋なども盛り込まれてはいますが、試合に出場するとなると、そのファイトマネーを脅し取られ、次の試合に勝たなければ殺す、と脅されるなど全く先の見えない展開。
　また、ビリー本人も精神的に不安定で、最後まで麻薬依存を断ち切れないなど、どうにも感情移入し難い感じ。
　更に、全体的に暗く、しかも、カメラも男たちの饐えた体臭が臭いそうな程、被写体に近づくアングルが多くて、カメラが何を写し、どのようになっているのか判り難い描写もそれを助長します。
　確かに、タイの刑務所を疑似体験出来る、と言う点での価値は理解しますし、その為のリアルさ追求もいいのですが、ドキュメンタリーではないのですから、映画としては、もう少し物語を見せて欲しかったように思いました。　
　

　（年　月　日　にて）

（作品データ）

　■監督

ジャン＝ステファーヌ・ソヴェール

　■出演

ビリー・ムーア　・・・　ジョー・コール

（その他のキャスト）
　ポンチャノック・マブラン　　ヴィタヤ・パンスリンガム　　ソムラック・カムシン　　パンヤ・イムアンパイ

　■コピー

絶望を越えろ

　■Ｌｉｎｋ

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