人魚の眠る家

　これは、東野圭吾による同題小説を堤幸彦監督が映画化したもの。

　IT機器メーカーの社長・播磨和昌と、妻の薫子は、現在別居中。娘の瑞穂の小学校受験が終わったら離婚すると約束していた。
　ある日、瑞穂がプールで溺れ、脳死状態になってしまう。回復の見込みがない娘を前に、生かし続けるか、死を受け入れるかという究極の選択を迫られた二人は、和昌の会社のエンジニア・星野の研究する技術により、前例のない延命治療を開始。瑞穂は肉体的には健康を取り戻して行くが……

　これは、脳死状態に陥った娘を巡る人間模様を通して、人の「死」と言うものを描き出すドラマ。
　人の「死」とは何か、心臓が動いている、それだけを以て生きていると言えるのか――それは、同時に人間とは何かを問う重いテーマを抱えています。
　そうしたテーマを内包した、娘の「死」を受け止める夫婦のドラマとしても見応えあるのに、この物語は更に科学技術の暴走と言う事態を重ねて描き、科学倫理をも問うものとなっているのです。
　その、科学技術の暴走の結果の描写には、思わずぞっとさせられ、この辺りの描写は最早、ホラー映画に近いものを感じましたし、そんな事態をも飲み込んで、周囲の非難も構わず、意識のない娘に愛情を注ぎ込み続ける母親の狂気じみた想いにも圧倒されます。

　キャストの方も充実しており、私生活でも同年齢の子供を持つ篠原涼子は、母の強さと狂気を迫真の演技で見せますし、受けに回った西島秀俊も見事。
　星野役の坂口健太郎もマッドサイエンティストと化して行く男の静かな暴走を好演してはいますが――篠原涼子、西島秀俊相手だと、さすがにお子様扱いなのが惜しい。もうちょっと年嵩の役者（例えばディーン・フジオカあたりか）ならば、和昌に「妻を寝取ったのでは？」と言う嫉妬心と疑惑を抱かせ、更にドラマを盛り上げられたでしょうに……

　重いテーマに見応えのある内容により、心打つドラマではあるけれど、決して“お涙頂戴”ではなく、むしろ抑えた描写であるのも好印象で、クライマックスでは、それ故に素直に感動させられました。　
　

　（年　月　日　にて）

（作品データ）

　■監督

堤幸彦

　■出演

播磨薫子　・・・　篠原涼子
播磨和昌　・・・　西島秀俊

播磨瑞穂　・・・　稲垣来泉

星野祐也　・・・　坂口健太郎

（その他のキャスト）
　川栄李奈　　山口紗弥加　　田中哲司　　斉木しげる　　大倉孝二　　駿河太郎　　ミスターちん
　遠藤雄弥　　利重剛　　斎藤汰鷹　　荒川梨杏　　荒木飛羽　　田中泯　　松坂慶子

　■コピー

この愛の結末に涙が止まらない――

　■Ｌｉｎｋ

http://ningyo-movie.jp/

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