これは、地方都市に住む女性の心象を綴った山内マリコの同題の連作短編小説を、名手・廣木隆一が映画化したもの。

　何者かになりたいと東京に出てから１０年、「私」は何となく実家に戻り、フリーライターとして地元のタウン誌に記事を書いている。
　冴えない日々を過ごしていた「私」は、高校時代の友人と久々に会った勢いで当時の憧れの的だった椎名くんに連絡して会いに行くことになる。その道すがら、「私」の脳裏に椎名くんとの忘れられない思い出が蘇って……
　一方、別れた椎名への思いをまだ引きずっている「あたし」は、椎名の取り巻きだった男と適当に付き合いながら、だらだらと地元で過ごしていた。「あたし」の心は椎名の彼女でいた時の輝かしい記憶に囚われたままで……

　この物語は、高校時代の憧れの男子、“椎名くん”を忘れられない「私」と「あたし」を軸に、周囲の人々の人間模様を描く青春群像劇。
　連作短編集だった原作小説を、そのまま映画化すればオムニバスになってしまう所ですが、クルマが変わるごとに乗る人と、時間軸を切り替える構成でひとつにまとめる辺りは巧みですし、イメージソングとなっている「茜色の夕日」を、登場人物それぞれがアカペラで歌い上げるクライマックスと、様々な工夫は見られるのですが、だらだらした会話を工夫のない長回しで撮る、それぞれのシーンは時に退屈で、物語がどうにも弾みません。
　輝いていた高校時代がくすんで行き、閉塞した地方都市の社会に埋没して行く……と言う物語のテーマも、まだまだ若い主人公らを見ると苛々させられるばかり――２０代の若者が「昔はよかった」などと言うのは１０年早い、と思ってしまいました。

　「私」を演じるのは橋本愛。久々に橋本愛のパッツン前髪が見られる、と言うのは見物（ただし、さすがに高校生役は苦しくなって来た）ですし、「あたし」を演じた門脇麦ら、その他キャストもなかなか豪華ではあるのだけど……「退屈な現実」を描くのはいいとして、その映画までが退屈でどうするのか、と言う印象で、これでは橋本愛と門脇麦の無駄遣いではないか、と思ってしまいました。　
　

　（年　月　日　にて）

（作品データ）

　■監督

廣木隆一

　■出演

私　・・・　橋本愛

あたし　・・・　門脇麦

椎名くん　・・・　成田凌

（その他のキャスト）
　渡辺大知　　岸井ゆきの　　内田理央　　柳ゆり菜　　亀田侑樹　　瀧内公美
　片山友希　　木崎絹子　　マキタスポーツ　　村上淳

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