寝ても　　
　　覚めても

　これは、柴崎友香による同題恋愛小説を、「ハッピーアワー」の濱口竜介監督が映画化したもの。今年のカンヌ映画祭で、「万引き家族」と並んで会場を沸かせた注目作です。
　出演は東出昌大と、新人の唐田えりか。

　東京のカフェで働く朝子は、コーヒーを届けに行った先で亮平と出会った。亮平の積極的なアプローチに戸惑いながらも惹かれていく朝子だったが、彼女には亮平に告げていない秘密があった。
　亮平は、かつて朝子が運命的な恋に落ち、やがて姿を消した恋人・麦に顔がそっくりだったのだ……

　これは、かつての恋人によく似た彼氏と出会った彼女の恋愛ドラマ……と思わせ、これは正に意表を突く展開。
　「女」と言うものの底知れなさを、ここまで見事に描いた映画があろうか、と言う傑作と思います。

　注目はやはり唐田えりかでしょう……黒目勝ちの目が印象的な素朴で清楚な感じ、美人に過ぎず、また、適度な底知れなさもあって、これは当たり役だと思います。
　恋人＆彼氏の２役を演じたのは東出昌大で、これも彼の持つ好人物な部分と正体不明の部分を上手く切り分けて演じ分けており、「大根役者」の評のある東出のイメージを変える好演だと思います。

　映画前半はややもたつきますが、後半の全く予想のつかない展開は正に息を呑むもので、これはカンヌを騒がせたのも納得の凄さです。
　５年も同棲し、結婚寸前の彼氏を、その目の前で裏切るのも凄いのですが、そうまでして走った昔の恋人を、「夢から覚めた」ように、あっさり切り捨てて彼氏の元に舞い戻る女の心境、これは男には全く理解できないでしょう……だからこそ面白いのですが。
　そして、その女の心象風景に重ね、東北の被災地の風景を重ねる……このセンスにも唸らされます。

　ラストシーン、「二度と信用しない」　と突き放す彼氏の新居に「それでもいい」と居座る女の強かさ。
　この理解出来ない、”女”と言うものと一生過ごすことになる男の将来に、ちょっとホラーな感じさえも匂わせる、圧巻の映画でした。
　

　（２０１８年　９月　５日　ＴＯＨＯシネマズららぽーと横浜にて）

（作品データ）

　■監督

濱口竜介

　■出演

亮平／麦　・・・　東出昌大
　
朝子　・・・　唐田えりか

（その他のキャスト）
　瀬戸康史　　山下リオ　　伊藤沙莉　　渡辺大知　　仲本工事　　田中美佐子

　■コピー

愛してしまう。
　「あなた」を――。

　■Ｌｉｎｋ

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