空飛ぶタイヤ

　これは、２００４年に起きた某自動車メーカーによるリコール隠し事件を元にした池井戸潤の同題小説を映画化したもの。
　「半沢直樹」シリーズや「陸王」など、映像化される事も多い池井戸潤作品ですが、意外にも映画化はこれが初めてとのこと。

　東京の小さな運送会社「赤松運送」の社長・赤松徳郎は、ある日、自社のトラックが事故を起こしたと警察に呼び出される。走行中に突如タイヤが外れ、ひとりの女性が死亡したと言うのだ。
　トラックの製造元であるホープ自動車は事故原因を赤松運送の整備不良と断定し、警察もそれに基づき家宅捜索を実施。
　顧客の信用を失い、銀行からは融資を断られ、窮地に追い込まれた赤松運送だが、車両の運行、整備にも落ち度はなく、警察も業務上の過失を立件出来ない。その中で、赤松はホープ自動車の調査結果に疑問を抱き……
　
　池井戸潤の小説には読み始めると止まらなくなってしまうような面白さとテンポのよさがありますが、この映画も実にテンポがいい。
　多くのエピソードに多くの登場人物、それに膨大な台詞と情報量を怒濤の勢いで見せる、それは、映画の時間制約もあって、ドラマ版と比べれば描写は希薄になり、物足りない部分もあるでしょうが、それでも、この映画には原作小説同様に引き込まれました。
　そして、池井戸潤と言えば逆転劇。正義と悪、と言うだけではなく、小よく大を倒す展開は痛快です。
　内容としては自動車会社の不正を暴く、と言うもので、銀行マン、そして経営コンサルタントであったと言う池井戸潤の経歴を活かし、日本映画が苦手とする会社組織の描写もなかなかリアル。サラリーマンとして毎日見ている“会社”内のドラマについては、身につまされる部分も少なくありませんでした。

　赤松徳郎を演じるのは長瀬智也。ＴＯＫＩＯの末っ子が“社長”とはねぇ、と思いますが、彼ももう４０歳。地に足の着いた感のある演技は好印象。
　その赤松と対照となるホープ自動車の沢田にはディーン・フジオカ。この男が、ホープ自動車社員から、ひとりの人間として不正に立ち向かうようになっていくのが、この物語のなかのもうひとつのドラマ。モデルとなった事件でも、不正を明るみに出したのは内部告発だったそうで、そんな、組織と個人の葛藤を描くのも見応えがあります。
　ただ、銀行マンの高橋一生はちょっと勿体ない使い方だったなぁ……

　尚、この物語のモデルとなった事故で、運送会社は廃業。被害者遺族の損害賠償請求にも、当初、自動車会社は応じませんでした。
　これは本当に酷い話で、これは物語の中だけでも一泡吹かせてやりたかった、と言う池井戸潤の気持ちも判ります。
　それ故の逆転劇ですが……現実を知るだけに複雑な気持ちになりました。　　

　（年　月　日　にて）

（作品データ）

　■監督

本木克英

　■出演

赤松徳郎　・・・　長瀬智也

　・・・　ディーン・フジオカ

（その他のキャスト）
　高橋一生　　深田恭子　　寺脇康文　　小池栄子　　阿部顕嵐　　ムロツヨシ　　中村蒼　　和田聰宏　　木下ほうか
　浅利陽介　　谷村美月　　近藤公園　　村杉蝉之介　　渡辺大　　矢野聖人　　田口浩正　　斎藤歩　　岡山天音
　矢島健一　　津嘉山正種　　毎熊克哉　　加藤満　　筒井巧　　中林大樹　　井上肇　　小久保丈二　　高川裕也
　池上紗理依　　木下隆行　　木本武宏　　柄本明　　佐々木蔵之介　　六角精児　　大倉孝二　　津田寛治
　升毅　　笹野高史　　岸部一徳

　■コピー

事故か、事件か。

　■Ｌｉｎｋ

http://soratobu-movie.jp/

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