これは、今年のカンヌ映画祭でパルムドールを受賞した是枝裕和監督の新作。

　東京の下町。古い平屋の一軒家に暮らす、治と信代の夫婦、その息子・祥太、信代の妹の亜紀、そして家主の初枝の５人。貧しい暮らしを、治と祥太の万引きが補っていた。
　ある冬の夜、治と祥太は、近くのアパートのベランダでひとり震えている幼い女の子を見つけ、結局その子を家に連れ帰ってしまう。
　「ゆり」と名乗ったその少女には、体中に虐待されたと思しき傷があった。翌日、ゆりを帰そうとした信代だが、部屋から聞こえてくる「子供なんて欲しくなかった」という怒鳴り声に、ゆりを帰すことができなくなってしまう……
　
　この映画、身寄りのない高齢者宅に転がり込み、血縁がないながらも疑似家族となった一家の暮らしを描いています。
　本作は、実際にあった年金不正受給事件に触発されて生まれた物語と言う事で、是枝監督の代表作である「誰も知らない」や前作「そして父になる」に連なる作品であると共に、家族とは何かを問う、是枝監督が追い続けるテーマを描いている事も合わせ、是枝作品の集大成的な映画にも思えます。

　一家の犯罪は万引きに留まらず、年金不正受給に、強請、誘拐、死体遺棄……更に治は、過去に殺人までしている、と言う犯罪のオンパレード。
　しかし、その何れも社会的弱者が底辺の暮らしの中で行った事であると共に、家庭内の暖かくほのぼのとした空気がそれを緩和します。
　映画の軸となるのは、両親から虐待されていた５歳の少女、ゆりを治が連れ帰り、新しい家族になって行くエピソード。
　確かに、他家の子供を勝手に連れ帰ってしまうのは誘拐以外の何者でもありませんが……両親の暴力で体中傷だらけになり、食事も与えられずに雪の舞う寒空にベランダに放置されている少女を見れば、温もりと食事を与えたいと思うのは人情で、それだけを見れば治の行為を咎めるのは難しいでしょう。

　そして、そんな治が作った疑似家族、それは映画コピーにある「犯罪が繋いだ絆」などではなく、彼の優しさが作ったものだ、と言うのが徐々に判って来ます。
　そうして得られた繋がりは、時に血縁を超えるのではないか？と言う是枝監督お馴染みのテーマが浮かび上がる中盤の展開は見事ですし、そんな家族で育っても、善悪を見極め、成長しない子供のような治を越えていく祥太の姿を見せるのもいい。そして、そんな疑似家族の無理と限界を、世間の良識を体現するような若い警察官に断罪させるのも辛辣です。

　治を演じるリリー・フランキーの自然体、カンヌを感嘆させた泣きの演技を見せた安藤サクラ、最早、仙人クラスの樹木希林と、キャストも文句なしですが、素晴らしいのは祥太役の城桧吏とゆり役の佐々木みゆ。やはり、是枝監督、子役を使うのが上手い。

　最後には、両親の元に戻されたゆりが再び虐待を受け、またしても玩具などと共にゴミのようにベランダに放り出されるのを描いて、再び、この国の家族をあり方を問う、刃の鋭さ。
　ラストシーンの樹里が、また治が救い出しに来てくれないか、と外を見回すのには胸が痛くなりました。
　

　（年　月　日　にて）

（作品データ）

　■監督

是枝裕和

　■出演

治　　 ・・・　リリー・フランキー
信代　・・・　安藤サクラ
祥太　・・・　城桧吏
亜紀　・・・　松岡茉優
初枝　・・・　樹木希林

ゆり　・・・　佐々木みゆ

（その他のキャスト）
　池松壮亮　　緒形直人　　森口瑤子　　山田裕貴　　片山萌美　　柄本明
　高良健吾　　池脇千鶴,

　■コピー

盗んだのは、絆でした。

　■Ｌｉｎｋ

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