これは、「フレンチアルプスで起きたこと」のリューベン・オストルンド監督の新作で、昨年のカンヌでパルムドールに輝いた映画です。
　映画としては知的でシニカルなブラックコメディ、と言う位置づけで、それがカンヌでは評価されたように思いますが、観客に問いかけ、考えさせるような部分も含め、これは観客を選ぶ種類の映画ではないでしょうか。

　スウェーデン王立現代美術館のキュレーターとして活躍するクリスティアンは、現代アート作品「ザ・スクエア」の展示準備を進めていた。それは、その“スクエア”の中では全ての人が平等の権利を持ち、公平に扱われるという“思いやりの聖域”をテーマにした参加型アートで、利他主義へと導く世の中の風潮に一石を投じるものになる筈だった。
　そんなある日、道端で携帯電話と財布を盗まれる被害に遭遇した彼は、それを取り返そうとある行動に出るが、それが思わぬ波紋を広げて行くことになる。
　更に、美術館においても「ザ・スクエア」の宣伝用動画が非難され、クリスティアンはその地位を脅かされる事になって……

　この映画、主人公となるクリスティアンの盗難被害から始まる私的トラブル、「ザ・スクエア」の宣伝ツイートの炎上と、その何れも泥沼化して行く様を描いていく、辛辣なコメディ。
　ただ、このクリスティアンと言う男、虚栄心が強く、本音を語らない、裏表のはっきりした人物。引き起こされる事態も、彼の自業自得的なものだし、舞台も現代美術界と言う、一般人には馴染のないものなので、どうにも感情移入しづらいのが難点のように思います。
　確かに、思わぬ事態に巻き込まれた時の人間の愚かしさを描くのは、「フレンチアルプスで起きたこと」にも通じるもので、それをきっかけに人がその中に抱える弱さや、優しさ、そして良心の有り様について問いかけ、考えさせるのは、この監督の持ち味。次第に露わにされていくクリスティアンの人間性と共に、それらを観客に突きつけて来る語り口は、相変わらず鋭いものがあります。
　また、コメディとしても小ネタがあちこちに散りばめられていて退屈はさせませんが……曖昧にも思える締めくくりも含め、やはり、広く受入れられるものではないような気がします。


ＰＳ
　この映画、日本でのレイティングは「Ｇ」なのだけど、結構露骨なセックス描写があります。
　劇場には「カンヌ・パルムドールで美術界を描いた文芸作品」と思った親子連れも来ていましたが、これは結構困ったのではないでしょうか？

　
　

　（年　月　日　にて）

（作品データ）

　■監督

リューベン・オストルンド

　■出演

　クリスティアン　・・・　クレス・バング

（その他のキャスト）
　エリザベス・モス　　ドミニク・ウェスト　　テリー・ノタリー

　■コピー

あなたの心が、試される

　■Ｌｉｎｋ

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