サニー／３２

　これは、「凶悪」や「日本で一番悪いやつら」の白石和彌監督の新作。
　ＮＧＴ４８卒業を発表したアイドル、北原里英を主演に、ＮＧＴ４８の地元・新潟で撮影した心理サスペンス＆バイオレンス映画です。

　中学校教師の藤井赤理は、２４歳の誕生日を迎えた雪の夜、２人組の男に拉致される。赤理を雪深い山中の廃屋に監禁した男たちはビデオカメラを回し、彼女の動画をネット配信するのだった。
　男たちは赤理を“サニー”と呼ぶ――“サニー”とは今から１４年前、小学生の女子が同級生をカッターナイフで殺害した事件の加害者の愛称だった。
　事件発覚後、ネットで「史上最も可愛い殺人者」と呼ばれた“サニー”は狂信的なファンを生み、男たちもそうしたファンだったのだ……

　この映画、佐世保小で起きた殺人事件と、その後、加害女児を特定、その加害女児を“アイドル”的に祭り上げた、ネット世界の騒動を膨らませて作り上げたもの。
　「凶悪」でも印象的だったピエール瀧とリリー・フランキーを配してはいますが、主演はあくまで北原里英。スーパーバイザーに秋元康を起用している事からも判るように、これは異色ではあるものの、アイドル映画と見る事が出来ます。
　身勝手な妄想で、“偶像”としての少女を崇拝し、依存し、憎悪の対象とし、或いは承認欲求の材料にする身勝手な人々の姿は、現実に“アイドル”に群がる人間をカリカチュアライズしたものでしょうし、その結果、“アイドル”が神格化し、宗教となって行く……と言うのも皮肉過ぎる展開で、さすが秋元康、アイドルと言うのがどう言うものか判っている、と感心しました。
　
　北原里英は撮影中、「４回くらい死ぬかと思った」と言う程に厳しい（それは、映画を観ていても判ります）内容を果敢に演じて、これは努力賞もの。
　正に体当たりと言うか命がけの演技で、これはアイドルの気合いと根性を見せた、と言う所でしょう。

　ただ、映画は、白石和彌監督作品として、かなり残念な出来。
　登場人物はやたらと多いだけで、その描写の深みに欠けますし、設定や物語もあちこちに綻び、破綻が見える粗いもの。
　特に門脇麦演じる二人目の“サニー”は全く余計で、門脇麦の演技が上手いからこそ、北原里英の演技の至らなさ（特に台詞回しが棒読みに聞こえてしまう）が目立ってしまう、と言う有様。
　それで、物語上の必然性が感じられないのですから、全くどうかしています。
　赤理の特異体質と思しき、電気が流れやすいと言う設定も活かせておらず、物語の締めも収まりが悪い……“アイドル”が”教祖”になるまでは面白かったのですが、中盤以降は失速した感じも受けました。
　

　（年　月　日　にて）

（作品データ）

　■監督

白石和彌

　■出演

藤井赤理　・・・　北原里英

柏原勲　・・・　ピエール瀧
小田武　・・・　リリー・フランキー

もうひとりのサニー　・・・　門脇麦

（その他のキャスト）
　駿河太郎　　音尾琢真　　山崎銀之丞　　カトウシンスケ　　奥村佳恵　　大津尋葵　　加部亜門　　松永拓野
　蔵下穂波　　蒼波純

　■コピー

拝啓、愛しのサニー様。あなたを拉致します。

　■Ｌｉｎｋ

http://movie-32.jp/

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