羊
の
木

　これは「がきデカ」の山上たつひこと「ぼのぼの」のいがらしみきおによる同題コミックを、「桐島、部活やめるってよ」の吉田大八監督が映画化したサスペンス。

　日本海に面するさびれた港町・魚深市の職員である月末一は、市に移住すると言う６人の男女の受け入れと支援を行う事になった。
　実は、これは国の極秘計画である、身寄りのない重犯罪者の仮釈放支援だった。
　過疎に悩む自治体が身元引き受け人となる事で元受刑者を受け入れ、国は受刑者の早期釈放により刑務所の負担を減らそうと言うのだ。
　魚深市が引き受けた６人は何れも殺人犯であり、前科者である事に後ろめたさを覚える者もいれば、早期の仮釈放による自由を満喫する者もいて、それぞれが新天地で暮らし始めたある日、港で死亡事故が発生して……

　この映画、何と言っても設定が秀逸。過疎に悩む自治体が訳ありでも移住者を得たいと言うのは現実的にありそうだし、刑務所の過密化も問題視されています。
　そうした社会的に現実味のある設定を背景に、犯罪、そして犯罪者にも理解出来る場合とそうでない場合がある、と言うのを描いた原作コミックに対し、映画は設定を借りた程度で、内容を大胆に改変。元受刑者も１１人から６人に絞り込んで、映画として限られた時間の中でそれぞれのドラマを描こうとしています。

　しかし、出来上がった映画は、いささか残念なもの。
　確かに、６人の元受刑者役に個性的な俳優を充てたせいで、それぞれが上手く見せ場を作っています。理容師の福元のエピソードは元受刑者の抱える問題でしょうし、元ヤクザの大野が居場所を得るのには意表を突かれましたが、これはこれでよい話。杉山役の北村一輝の小悪党ぶりも板についたもので、優香演じる太田理江子が情欲に溺れる描写は、正に山上たつひこ世界の完全実写化と言う趣。
　こうしたサイドストーリー部分はなかなかよく出来ていますし、導入部は、漠然とした不安を感じさせる展開と緊張感もあって、その先の展開に期待を感じさせられたのですが……いただけなかったのは物語の中心となって行く、生理的に受け入れられないタイプの犯罪者であり、典型的なサイコパスの宮腰と、月末のエピソード。
　宮腰を演じた松田龍平は相変わらずの感情の読めない不気味さをよく出しているのですが、そんな宮腰を友人として受け入れる月末と、恋人となってしまう文、と言うのがどうにも理解出来ず、クライマックスの展開に説得力がなかったのは気になりました。
　また、月末に文、それに須藤を加えたロックバンド、と言うのも映画の中で上手く機能しているとは思えませんでした。（本業がギタリストの錦戸亮に対し、２人はよく頑張っているとは思うのですけど）

　タイトルになっている羊の木、とはダッタン人の語る伝説にある羊の成る木の事なのですが、これを希望の象徴とし、死体を埋葬し続ける栗本への赦しの含みを持たせたラストも今ひとつの印象。
　物語の設定と、掲げるテーマには見るべきものがあるし、俳優の力量にも文句なしであるだけに、細部のリアリティ欠如と、原作から改変された映画オリジナルとなる物語の弱さが惜しい、と言う印象でした。
　

　（年　月　日　にて）

（作品データ）

　■監督

吉田大八

　■出演

月末一　・・・　錦戸亮

石田文　・・・　木村文乃

宮腰一郎　・・・　松田龍平

（その他のキャスト）
　北村一輝　　優香　　市川実日子　　水澤紳吾　　田中泯　　中村有志　　安藤玉恵
　細田善彦　　北見敏之　　松尾諭　　山口美也子　　鈴木晋介　　深水三章

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