これは、宮月新の同題コミックを「ある優しき殺人者の記録」の白石晃士監督が映画化したスリラー・サスペンス。
　不能犯とは、その目的とする事が犯罪であったとしても、その行為が結果にどのように結びつくのかを科学的に証明出来ない（例えば「呪い」など）場合、その行為を罪に問う事は出来ない、と言う事を示します。
　この映画は、そんな不能犯に該当する、「見つめるだけでマインドコントロールにより死に至らしめる」能力を持った男を描きます。

　人為的な死の理由が見当たらない不可解な変死事件が連続して発生。その影には“黒い服の男”があった。
　都市伝説としてウワサされる“黒い服の男”は電話ボックスに伝言を残すと、依頼者が殺して欲しいと願う人物に死をもたらすと言うのだ……
　そんな事件がまた起き、所轄警察の刑事・多田は現場に姿を見せた“黒い服の男”・宇相吹正に任意同行を求めるが、聴取の最中に多田の先輩、夜目の具合がおかしくなって……

　ＳＮＳなどネットで安易に「死ね」と言う言葉が飛び交う昨今、そんな“本物でない殺意”が生み出したような怪物、“黒い服の男”を登場させ、彼がもたらす死と、それを罪に問えるか、と対立する刑事と言う図式は面白いし、一見、串団子のようなエピソードの羅列も、それが浮かび上がらせる要素をそれぞれに変えて、物語を盛り上げつつ、進めて行く辺りもなかなか。
　そこに、悪意ある殺意だけの殺人者を加え、三つ巴になるクライマックスの構図もよく、これはなかなか楽しめました。

　“黒い服の男”には、これまでの好青年のイメージを大きく変えた松坂桃李。多田役の沢尻エリカもこれまでにない役柄で、キャスティングも意欲的です。
　ただ、俳優にとってそうした新たな挑戦となるのに対し、役作りの時間がとれない日本映画故に、不慣れさやぎこちなさが散見されますが……

　気になったのは、多田の上司などが「不能犯だから立件出来ない」と、変死事件の捜査と立件をすぐ諦める事。
　日本の警察がそんなに淡泊な筈などなく、しかも、宇相吹には同僚刑事を変死させられているのです。更に、姉妹変死事件では、妹が姉の殺害を宇相吹に依頼した通話記録まで残っているのですから、いくら物証がなかったとしても、宇相吹を拘留期限一杯まで押さえ、状況証拠だけでも立件しようとするのが当然ではないか、と思ってしまいました。
　そうしたリアリティの欠如や、観客のミスリードを誘うのが見え見えのあからさまにおかしな演出があって白けさせられたのは残念でした。

　また、宇相吹の正体や、その目的に対する踏み込みも浅く、最後の対決もすかされた感じで物足りませんが……この辺りは続編を睨んでいるのでしょうか？
　出来れば１本入魂できっちりとまとめて欲しかった所です。

　

　（年　月　日　にて）

（作品データ）

　■監督

白石晃士

　■出演

宇相吹正　・・・　松坂桃李

多田友子　・・・　沢尻エリカ

（その他のキャスト）
　新田真剣佑　　間宮祥太朗　　テット・ワダ　　菅谷哲也　　岡崎紗絵　　真野恵里菜　　忍成修吾
水上剣星　　水上京香　　今野浩喜　　堀田茜　　芦名星　　矢田亜希子　　安田顕　　小林稔侍

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愚かだね、人間は――

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