ピンカートンに　
　　　会いにいく

　これは、「恋人たち」を生んだ、松竹ブロードキャスティングのオリジナル映画プロジェクト第５弾で、「東京ウィンドオーケストラ」の坂下雄一郎監督のオリジナル脚本によるコメディ。
　「最近の映画はアニメかマンガの原作ものばかり」と嘆く声はよく聞かれますが、この映画は、そんな現状の中で数少ないオリジナル……とは言え、それが全国で新宿武蔵野館単独公開なのですから、やはりオリジナルは難しい、と思ってしまいます。

　突如解散してしまったＢ級５人組アイドルグループ「ピンカートン」のリーダーだった優子は、２０年経った今でもタレントとして芸能界にしがみついている。だが、アラフォーとなり、ろくな仕事は貰えず、派遣アルバイトで食いつないでいる状況だ。
　そんな優子に、ある日レコード会社の松本と言う男から電話が入る。それは「ピンカートン」再結成の誘いだった。
　芸能事務所から契約解除を告げられ、行き詰まっていた優子は迷いながらも誘いに乗り、元メンバーの元を訪ねるのだが……　

　これは、芸能界の陰の面にスポットを当て、“売れないアイドル”、“昔のアイドル”の悲哀を描こうとする物語。
　勿論、悲劇なのは当の本人、遠目に見ているだけの傍観者からは喜劇になるのも世の常で、この映画は、それをコメディとして描きます。
　映画は、「ピンカートン」のリーダー優子と人気Ｎｏ．１だった葵の２人を中心に、優子の心ない言葉が、友情を壊し「ピンカートン」を壊してしまった、と言う２０年前と、その友情を取り戻す現在のドラマを交錯させて描いて行きます。

　優子を演じる内田慈を始め、人気俳優は出ていません。ただ、それでも皆いい芝居をしていますし、現在の優子らを演じた女優と、２０年前の彼女らを演じた女優のイメージもぴったりで、違和感なし。この辺りは人気俳優を使うと言う制約のなさから来る利点でしょうか。

　主人公となる優子ですが、これが無意味にプライドが高く、見栄っ張りで強情で、口を開けば言い訳ばかり。しかも、努力を惜しむ、と言う、どうしようもない性格。
　「ピンカートン」の現役時代でさえ、人気が出るように頑張る以前に、売れてるグループやアイドルを嫉み、中傷を投げつけ、「あいつら死んでくれないものか」と口にしていたのですから――さらに、そんな妬みを葵にぶつけてしまって「ピンカートン」は解散となるのです。
　そんな優子を否定は出来ないのは、これは世の大半の人々が、優子のように小さなプライドを守るために似たような事をしている事を思わされるから。優子の言動、行動は誇張されているとは言え、多くの人に重なる部分があり、痛さを感じさせるし、だからこそ面白い。
　でも、優子もアラフォーになり、人生経験を重ねれば己を顧みる事もある訳で、悩み、苦しみながらも、己の非を認めて葵に詫びる、それを加湿器に重ねて語るシーンの秀逸さ。
　ここは思わず涙するシーンです。

　クライマックスは解散によって幻となった「ピンカートン」のステージと、再結成イベントのステージを重ねたシーン。
　友情を取り戻してかつてのようにひとつになった「ピンカートン」のステージに涙する松本……かつてのファンの想いをも重ね、アラフォーだけど立派にアイドルやって見せたのは圧巻ですし、最後に当時と変わらぬ５人を見せて笑いを取るのもさすがに上手い。
　これは心に響くいい映画です。　
　

　（２０１８年　１月２０日　新宿武蔵野館にて）

（作品データ）

　■監督・脚本

坂下雄一郎

　■出演

神崎優子　　　 ・・・　（現在）内田慈　　 （２０年前）小川あん
中川葵　 　　　 ・・・　（現在）松本若菜　（２０年前）岡本夏美
藤原美紀　　　 ・・・　（現在）山田真歩　（２０年前）柴田杏花
五十嵐かおり　・・・　（現在）水野小論　（２０年前）芋生悠
渡辺葉月　　 　・・・　（現在）岩野未知　（２０年前）鈴木まはな

松本清一　・・・　（現在）田村健太郎　　

　■コピー

もう一度、アイドルやっちゃう!?

　■Ｌｉｎｋ

www.pinkerton-movie.com/

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