これは昨年ＴＶドラマ化された、柚木麻子の同題小説を「さよなら歌舞伎町」の廣木隆一監督が映画化したもの。
　ナルシストの青年と、５人の女たちを描くヒューマンドラマです。

　デビュー作を大ヒットさせ、女性たちから“恋愛のカリスマ”視されている若き脚本家、矢崎莉桜。そんな彼女が、ファン向けのトークショーに出席した恋愛に悩む女性たちをピックアップ、次回作の題材にしよう、と恋愛相談を兼ねたインタビューを行う。
　声をかけたのは、彼氏に邪険にされ、５年の交際期間で１度も寝た事がないと言う“Ａ”、勘違い男につきまとわれている“Ｂ”、本命になれない女“Ｃ”と、その親友で初めての恋愛にのめり込む“Ｄ”……彼女たちは、みな見た目はいいが、自己中心的な痛い男と関係しており……

　この映画、原作もＴＶドラマも未見、よくあるラブコメものか、と軽い気持ちで見始めたのですが……これがかなり痛い映画となっています。
　その“痛さ”を生み出しているのは、間違いなく岡田将生演じる伊藤と言う男。
　この男、ナルシストな上に自己中心的、そしてサイコパスを疑う程に他人の気持ちを汲めない男。映画の中でも「痛い」とか「キモイ」とか散々な言われ様ですが、そんな彼を否定出来ないのは、彼の行動原理である「自分が傷つかない、傷つけられない」と言う思いは、現代を生きる多くの人の中にも存在するだろうから。
　（少なくとも自分には少なからずそうした部分があり、終盤で伊藤が言う「リングに上がらなければ負けない」は、似たような事を口走った記憶さえあります）
　そんな思いを、グロテクスクなまでに肥大化させた伊藤と言う男を、現代人は決して無視出来ませんし、そんな、現代人をよく写し、或いは観ている人のある部分を戯画化しているからこそ、この映画は心に突き刺さる“痛さ”を持っているのではないでしょうか。
　そして、岡田将生は、よくこの男を演じています。「告白」や「何者」でも、岡田将生は自己中心的で言い訳ばかりの嫌らしい男を演じていましたが、この映画では更に磨きがかかり、その笑顔など悪魔的なおぞましさを感じさせる程です。
　
　そんな痛い男を巡る物語を紡ぐ、Ａ〜Ｅまで５人の女のエピソードを莉桜を狂言回しにひとつにしていくアイデアは秀逸ですし、群像劇を得意とする廣木隆一ならではの場面転換も職人芸。ただ、一部、シーンの繋ぎに不自然さがあったのは気になりましたが……
　ただ、そんな物語の後味は決して悪くないのは、伊藤に関わった女たちがいずれも伊藤を踏み台に、あるいは反面教師として、次の一歩を踏み出す覚悟を決めているから。
　その点では、この物語、原作と脚本が女性と言う事もあって、徹底的に女性目線。
　現実を生きる彼女たちには、自己愛の世界に籠もる男に関わっているのは無駄と言う姿勢を示しているのがまた痛い所。
　そう、まだ伊藤は、その抜群の見た目で女たちを虜にする事が出来ましたが、そうではない男など、彼女らには足蹴にされるだけ、と言う別の“痛さ”も感じさせるのです。

　クライマックスの対決シーン、悪魔の笑みを浮かべる伊藤に対峙し、伊藤の忌み嫌う「無様で切実」な足掻きをし続ける決意を固める莉桜を、スポットライトのように日差しが照らします。
　そのカットに込められた想い――それは、足掻き続ける事が人生だ、と、自己愛の高さ故に個に引きこもりがちな現代人に向けたメッセージ。
　これは、そんな痛くも熱い、映画でした。

　

　（年　月　日　にて）

（作品データ）

　■監督

廣木隆一

　■出演

　矢崎莉桜　・・・　木村文乃

　島原智美（A）　・・・　佐々木希
　野瀬修子（B）　・・・　志田未来
　相田聡子（C）　・・・　池田エライザ
　神保実希（D）　・・・　夏帆

　伊藤誠二郎　・・・　岡田将生

（その他のキャスト）
　田口トモロヲ　　中村倫也　　田中圭

　■コピー

伊藤清二郎・容姿端麗、自意識過剰、無神経、２８歳フリーター

　■Ｌｉｎｋ

http://www.ito-kun.jp/

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