彼女が目覚めるその日まで
ＢＲＡＩＮ　ＯＮ　ＦＩＲＥ

　これは、スザンナ・キャラハンの抗ＮＭＤＡ受容体脳炎との闘病記「脳に棲む魔物」を、クロエ・グレース・モレッツ主演で映画化したもの。

　ニューヨーク・ポスト紙の若手記者スザンナ・キャラハン、２１歳。職場でも実力を認められ、ミュージシャンの恋人スティーブンとの交際も順調で、公私共に充実した日々を過ごしていたが、物忘れと半身の痺れ、そして不眠症に悩まされるようになる。やがて、仕事にも支障を来すようになるが、医師の診察では異常は見つからない。
　やがて、症状は更に悪化。幻覚や幻聴に悩まされた挙げ句、スザンナは全身痙攣を起こして入院するが……

　この抗ＮＭＤＡ受容体脳炎は、所謂“悪魔憑き”、「エクソシスト」で描かれたような人格変貌と意識障害を示す奇病であり、２００７年に病名がつけられるまでは治療法不明の難病とされていました。
　尚、日本でこの映画と同日に公開された「８年越しの花嫁」のヒロインを襲ったのもこの病であり、同じ病気を扱った難病もの映画が同時公開されると言う事態となっています。
　これは、そんな難病もの映画なのですが、その種の映画にありがちなお涙頂戴部分が殆どなく、この病気がどのような症状を引き起こすのかを、患者目線で描いています。
　幻覚や幻聴、人に理解されない苦しみ……と言うのは体験した本人にしか判らないものでしょうし、原因不明の症状を安易に精神病として薬漬けにするかたらい回しにしようとする医師の逃げをも描く、社会派側面があるのも見逃せません。
　勿論、これはスザンナ・キャラハンがジャーナリストであり、そうした状況を知らしめる事で難病と闘う人々の助けになれば、と言う想いで書かれたものを元にしているので、当然とも言えるのですが。

　クロエ・グレース・モレッツは、そんな病に苦しむヒロインを熱演しており、好印象――ただ、「８年越しの花嫁」を観た後では、ちょっと綺麗な状態を保ちすぎかな、と想わなくもないですが……
　また、まだ病名がはっきりしない状況で、ヒロインに生じる幻覚や幻聴は、ほぼホラー映画のノリで、これはなかなか恐ろしい。いくら検査しても医師が原因を突き止められないのを相まって、先の見えない恐怖描写は、８７分と言う長くない上映時間を酷く長く感じさせる程でした。

　気になったのは邦題で、これこそ同時の「８年越しの花嫁」を意識したのでしょうが、これは内容を表わしていないし、お涙頂戴の難病ものと勘違いする人もいるでしょう。
　ここは原題のままか、邦題をつけるなら原作の邦題と同じものにした方がよかったのではないでしょうか？
　

　（２０１８年　　１月　３日　シネマジャック＆ベティにて）

（作品データ）

　■監督・脚本

ジェラルド・バレット

　■出演

　スザンナ・キャラハン　・・・　クロエ・グレース・モレッツ

　スティーブン　・・・　トーマス・マン

（その他のキャスト）
　リチャード・アーミテイジ　　キャリー＝アン・モス　　ジェニー・スレイト　　タイラー・ベリー　　アレックス・ザハラ　　ジェン・マクレーン＝アンガス
　ケン・トレンブレット　　ナヴィド・ネガーバン　　ロバート・モロニー　　アガム・ダーシ　　ジャネット・キダー　　ヴィンセント・ゲイル

　■コピー

原因不明の病と闘った一人の女性と生きる希望をつないだ家族の感動の実話。

　■Ｌｉｎｋ

http://kanojo-mezame.jp/

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