最低。

　これは、ＡＶ女優、紗倉まなの同題小説を「６４　ロクヨン」の瀬々敬久監督が映画化したもの。

　３４歳の専業主婦・橋口美穂。夫は何事にも淡泊で家中の事には無関心、美穂ともセックスレスの関係が続いている。一方、美穂は入院した父親の看病で、家と病院の往復ばかり――このまま同じ生活が続くのだろうか、と言う漠然とした不安の中、小さい頃からお転婆な姉とは対照に“いい子”であり続けた美穂の冒険……それはＡＶに出演する事だった……
　１７歳の本間あやこは、喫茶店を営む祖母と暮らしている。ある日、そんなあやこの元に行方知れずだった母、孝子が戻って来る。田舎町には似合わない奔放な女性の孝子には、元ＡＶ女優だった、と言う噂があって……
　２５歳の彩乃は母と上手く行かず、逃げるように上京して東京の専門学校生となった。だが、軽い気持ちで出演したＡＶで、人気女優となった彼女はいつしか学校も休みがちになっていた。そこへ、娘のＡＶ出演を知った母の泉美が押しかけて来て……

　原作小説（残念ながら未読）は、短編集だそうですが、映画はその中から３つのエピソードをピックアップして組み合わせ、ひとつの映画としています。
　それぞれのエピソードは、恐らくは紗倉まな自身の物語（彩乃の話がそうでしょう）を含め、彼女がＡＶに携わる中で知り得たものと思いますが、それぞれが血肉の通った生々しいものばかりで、なるほど、人間の性が剥き出しにされるＡＶの現場で生きて来た彼女ならではの経験と言うのが伊達ではないのだ、と感じました。
　そんな物語をシャッフルして編み上げた映画は、冒頭部分こそ、状況把握に戸惑いますが、主役３人が認識出来る頃には違和感なし。むしろ性を扱う内容だけに、深入りをせず、映画をくどくしない距離感には感心させられました。

　物語としては、ＡＶと言うよりも現実に閉塞感を覚える女性たちの話、と言う所。ＡＶを卑下したりしないのは、ＡＶ女優である紗倉まな自身の見方でしょうが、世間はそうは見ていないと言う視線を忘れないのはさすが、と言う所でしょう。ただ、「ＡＶ」と言う台詞が余りに多いのは気になりましたが……
　そんな３つのエピソードの中では、やはり美穂の話にインパクトあり。いい子のままで、３０過ぎになり“人妻デビュー”した美穂のこじらせっぷり。父の危篤時にＡＶ撮影し、その事を葬儀準備の最中、夫とセックスしながらカミングアウトする、と言うのも凄い展開ですが、そうして美穂が漸く“悪い子”になれたかと思えば、姉は更に羽目を外していて、となるのは、皮肉の効きすぎ。この姉妹、この後、それぞれ結婚生活を続けられるのか、と心配になりました。
　映画は、そこにあやこが絡んで来る意外な展開を見せて、あっと思わせますが、そうなると彩乃のエピソードの収まりがいささかよくありません。
　勿論、それは紗倉まな本人が最も色濃く投影されるエピソードなので切る事も出来なかったのだろう、と思いますが……それだったら、彩乃は紗倉まな本人が演じるべきではなかったのか、と思ってしまいました。　
　

　（年　月　日　にて）

（作品データ）

　■監督

瀬々敬久

　■出演

橋口美穂　・・・　森口彩乃

本間あやこ　・・・　山田愛奈

彩乃　・・・　佐々木心音

（その他のキャスト）
　忍成修吾　　森岡龍　　斉藤陽一郎　　江口のりこ　　渡辺真起子　　根岸季衣　　高岡早紀

　■コピー

私は生きる。
全てが今壊れても。

　■Ｌｉｎｋ

http://saitei-movie.jp/

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