ビニー／信じる男
ＢＬＥＥＤ ＦＯＲ ＴＨＩＳ
これは、頸椎骨折と言う重傷から奇跡のカムバックを遂げたボクサー、ビニー・パジェンサの復活劇を描く映画。
主演は、「セッション」のマイルズ・テラー。
ビニー・パジェンサは問題ボクサーだった。強い事は強いのだが、ろくに練習も減量もせずに計量直前までホテルで女とベッドインしているかと思えば、試合前夜だと言うのにカジノに繰り出す。
そんなビニーは敗戦をきっかけに所属ジムに愛想を尽かされて放り出され、貧乏ジムに身を寄せる事になる。だが、ジムのトレーナー、ケビンはビニーを鍛え直し、二階級上げてチャンピオンベルトを手にするのだった。
しかし、その直後、ビニーは交通事故に遭遇、頸椎骨折と言う重傷を負ってしまう。ボクシングはおろか、歩く事さえ危ぶまれたビニーだが……
ボクシングと言うのは勿論、対戦相手のあるスポーツですが、この映画で、ビニーが戦うのは、ライバルではありません。ビニーが戦うのは怪我と、そして自分自身。そうした部分から、この映画、難病もの映画に近い要素があります。
それにしても、ビニーが対決する脊髄骨折と言うのは手強い相手。
頭蓋にネジ止めして脊髄を支えるハローと呼ばれる固定器具の見た目は、正に心を折りかねないもの。
ガールフレンドが逃げ出し、ビニーのボクシングでの成功を生きがいとして来た彼の父親が絶望の余りに老け込んでしまう、と言う残酷でさえある描写により、それは示されます。
それでも諦めず、ハローをつけたままベンチプレスを行おうとするビニーの姿が、当初ギャグにしか見えない、と言う絶望的なもので、ここからの復活、と言うのは正に奇跡の物語に相応しいもの。
クライマックスとなるカムバック戦の描写には熱くなりますし、エンドロールに本人が登場して語る言葉にも重みがあります。
十分以上にドラマッチクな内容ではあるのですけど、この映画、ややテンポが悪く、盛り上がりに欠ける印象で中盤はだれて眠くなってしまったほど。
ビニーを演じたマイルズ・テラーの役作りは素晴らしいのですが、彼とケビン以外の人物にドラマが感じられなかったのも物足りない所。特にビニーのガールフレンドなど、確かに入れ替わりが多いのですが、その個性を感じられないから、ただ「いるだけ」になってしまう……
確かに、難病ものと同様に己と戦う物語故に対決ムードを盛り上げ難い、と言う要素はあれど、ボクシング映画には「ロッキー」を始め、ライバルではなく、己の人生と戦う傑作が数多くあるのです。
魅力ある題材と、役者の頑張りがあるだけに、この出来がちょっと勿体なく感じられました。
（年 月日 にて）
（作品データ）
■監督
ベン・ヤンガー
■出演
ビニー・パジェンサ ・・・ マイルズ・テラー
ケビン・ルーニー ・・・ アーロン・エッカート
（その他のキャスト）
ケイティ・セイガル キアラン・ハインズ テッド・レヴィン
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