無限の住人
これは、沙村広明の同題の人気コミックを、木村拓哉主演で実写映画化したもの。
監督は、コミック原作映画を多く手掛けて来た三池崇史。
藩内の騒動に巻き込まれお尋ね者となった万次は、逃避行の中で最愛の妹を失い、その仇を討つ為に無謀な戦いに挑む。死を覚悟した万次だったが、謎の老婆によって永遠を与えられ「死ねない人間」となってしまう。
やがて時がたち、世捨て人となった万次の前に、ひとりの少女が現れる。
少女は、無天一流統主の一人娘の浅野凜。天津影久率いる逸刀流の道場破りに遭い、父を殺され母を連れ去られた彼女は、見知らぬ老婆から、父の仇を討つ為には万次を用心棒に雇うようにと告げられたのだと言う。
凛に亡き妹の姿を重ねた万次は、彼女を守り抜くことを心に決めるのだが……
原作コミックは全３０巻になる大長編ですが、この映画、それを丸ごと１本の映画にまとめようとするものになっています。
確かに、この物語、凜の仇討ちと言う筋があり、それは完結させたいとする一方で、長い物語の中で登場した様々なキャラクターも登場させたい、と言うのも判ります。
しかし、映画は約２時間と言う時間の制約があるもの。その中にあれもこれもと突っ込んだ為に、この映画は、物語の流れにドラマを描き出す事が出来ず、原作コミックに登場した様々なキャラクターが繰り広げるバトルロワイアルとなってしまいました。
確かに、時代劇に慣れたスタッフと、三池監督のアクション演出の冴えもあって、チャンバラと言うよりは江戸時代の異種格闘戦のようなアクションも、それ自体はよく出来ていますし、クライマックスの３００人斬りの熱量は見応えあります。また、多数を相手に戦う万次や天津影久の武器は、日本刀ではなく鉈のような厚みのある刃物で、切り伏せるよりも殴り倒すように描かれているのも説得力があります――日本刀ではあのような乱戦では血脂と刃こぼれですぐに斬れなくなってしまいますから。
しかし、ドラマを描かれる事のないキャラクターは、どうしても“雑魚キャラ”に見え、そこに重みを感じさせませんし、この映画では万次は決して達人とは言えず（不死になると自分の命の重さがないので剣の腕が鈍ると言う設定）、結構斬られる上に、仕留めるのに手こずっているので、どうにも爽快感がありません。
木村拓哉は万次と言う難役を熱演していますし、周りを固めるキャストもなかなか――ただ、杉咲花が、当時の女性からしたら考えられない、手を振り、脛も露わに走り回るのは気になりましたが。
シーンだけを切り取れば、原作コミックの世界をよく再現出来ていると思います。
それでも、あれもこれもと詰め込んだ挙げ句にドラマを欠いた映画の仕上がりはいただけません。
三池監督は、与えられた仕事をきっちり仕上げている印象はあるので、ここは思い切ってシリーズ化するか、エピソードとキャラクターを刈り込むか、企画段階での思い切りが必要だったのではないでしょうか。
（年 月日 にて）
（作品データ）
■監督
三池崇史
■出演
万次 ・・・ 木村拓哉
浅野凜 ・・・ 杉咲花
天津影久 ・・・ 福士蒼汰
ナレーション ・・・ 山崎努
（その他のキャスト）
福士蒼汰 市原隼人 戸田恵梨香 北村一輝 栗山千明 満島真之介 金子賢
山本陽子 北代高士 市川海老蔵 田中泯
■コピー
不死身って、死ぬほどめんどくせぇ。
■Ｌｉｎｋ
［戻る］