|
これは、山本周五郎賞受賞の森見登美彦の同題小説をアニメ映画化したもの。
監督は、「マインド・ゲーム」などの個性的なアニメーション作品で知られる湯浅政明で、これが１３年ぶりの新作になります。
物語の舞台は京都。大学のクラブの後輩である“黒髪の乙女”に恋心を抱く“先輩”は、“なるべく彼女の目にとまる”ナカメ作戦を実行する。
春の先斗町、夏の古本市、秋の学園祭、そして冬の嵐――個性的な登場人物に魑魅魍魎までもが入り乱れる京都の夜、想いが強すぎて延々と外堀を埋めることしかできない“先輩”の想いの行方は……
この映画、主人公となる“先輩”の声を充てているのは星野源。好きなのに打ち明けられずに悶々とする、隠れ変態の“先輩”役にはハマリ役。しかし、この”先輩”の片思いを描くラブコメだろう、と思って観に来た一般の観客を唖然とさせるであろう、まるで異世界にトリップしたような、素っ頓狂な世界観と展開は、凄いの一言しかありません。
勿論、それには森見登美彦の原作小説の要素もあるのでしょうけど、’７０年代のアニメのようなシンプルな描線と、アート作品のようなディフォルメと色使いで描かれた、独特の作品世界は、正に湯浅政明の持ち味で、これは大変な才能と思いました。
問題と思えるのは、やはり、観客を選ぶ作品と言う事。歴史と伝統に加え、魑魅魍魎の蠢く異世界と表裏一体である京都を舞台にし、しかも酒飲みの一夜の夢、と言う部分から、これは子供向けではあり得ないし、理解には文学的素養も多分に必要です。現状では、これを面白がる事が出来る観客は多くないのではないでしょうか？
また、構成的にも描かれる四季が一夜のうちに通り過ぎて行った事、と言うのオムニバス風になりそうな物語をひとつにまとめる狙いだったのでしょうけど、終盤で「あっ」となったくらいで、少々外した感あり。ここはもう一工夫欲しかった所です。
これだけとっちらかった内容を最後は現実に着地させるシナリオを含め、湯浅政明の才能を感じる映画だっただけに、とっつき難い内容で、観客を制限しているのが勿体ない……ちょっと残念な１本でした。
（年 月日 にて）
（作品データ）
■監督
湯浅政明
■出演
先輩 ・・・ 星野源
黒髪の乙女 ・・・ 花澤香菜
（その他のキャスト）
神谷浩史 秋山竜次 中井和哉 甲斐田裕子 吉野裕行 新妻聖子 諏訪部順一
悠木碧 檜山修之 山部和弘 麦人
■コピー
■Ｌｉｎｋ
［戻る］