疾風
スプリンター
これは、「激戦 ハート・オブ・ファイト」のダンテ・ラム監督が、自転車ロードレースの世界を舞台に描く青春スポーツドラマ。
チョン・ジウォンをエースとする新進気鋭の自転車ロードレースチーム“レディエント”。
野性的なスプリンター、チウ・ミンと、山岳レースを得意とする頭脳派のティエンの２人は、テストに合格してジウォンのアシスト役としてチームメンバーとなる。
実力ある２人が加わり、レディエントはライバルであるチーム・ファントムと競り合い、シリーズチャンピオンを目指して……
「激戦」で熱き肉体のぶつかり合いを描いたダンテ・ラム、本作でもその熱さと激しさは変わらず、一見スマートな自転車レースを、意地と気迫がぶつかり合う迫力あるものとして描いています。
実際のプロのレーサーを多く動員して描かれるレースシーンは、現実のレースでは撮影し得ないアングルからの画像により、リアリティを越えたスピード感と迫力を生み出し、派手なクラッシュに流血シーンなど、殆ど格闘技のノリです。
（エンドロールに撮影時の様子が映し出されるのですが、リアルな流血シーンの連続で正直、引きました）
ドローンを使用して走行中の自転車を追った躍動感のあるシーンや、レースコースとなる雄大な風景の中を走る自転車など、自転車の好きな人には堪らないだろうなぁ、と言うシーンも多くありますし、ロードレースだけでなく、室内競技場でのスプリント競技や、競輪なども描かれ、これまた興味深く、面白いもの。とにかく、自転車競技シーンはなかなかのものです。
ただ、さすがに終盤、ネタ切れとなったか資金が尽きたか、最後の勝負は砂漠の中の直線で決着をつける、と言うもので、いささか単調となってしまったのが惜しまれます。
そして、ドラマとしてはかなり若者向け、と思える内容。ラブコメ的要素も多く、ヒロインのシーヤオを巡る恋騒動が描かれる冒頭部分などは、意外な程にコミカルで軽いノリとなっています。
若者向けとして友情と努力のドラマが熱く描かれるのは嫌いではない（むしろ好み）ですし、ロマンスだって映画には必須。それは悪い事ではないのですが、この映画、脚本の粗が目立ち、回収されない伏線や思わせぶりだけの描写が目立つ――特に、ティエンを巡るエピソードに――のは気になりました。
（少なくとも思わせぶりたっぷりのティエンの追っかけ女子カメラマンは、最後ティエンにくっつけて欲しかったです）
もっとも、若者向けのスポ根映画とは言え、真っ直ぐなだけの物語ではなく、挫折もあれば、成功の後の驕りと転落もあり、薬物使用や、ギャンブルの誘惑などの暗黒面もしっかり盛り込まれているのはさすが、と言う所ですし、舞台も、登場人物の立ち位置もめまぐるしい程に移り変わり、浮き沈みするドラマには退屈させられる事がありません。
ただ、一方で、レースに恋に３人の男たちの浮き沈みを描くとなると、そのエピソードは１本の映画に収めるには、いささか多過ぎ、さすがに描き切れていない感じ。この内容からすれば、この物語、連続ドラマとした方がよかったんじゃないか、と思ってしまいました。
（年 月日 にて）
（作品データ）
■監督
ダンテ・ラム
■出演
チウ・ミン ・・・ エディ・ポン
ティエン ・・・ ショーン・ドウ
チョン・ジウォン ・・・ チェ・シウォン
シーヤオ ・・・ ワン・ルオダン
（その他のキャスト）
カルロス・チャン アンドリュー・リン オーヤン・ナナ
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連れていく、限界のその先へ――
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