虐殺器官
これは、３４歳の若さで逝去した天才ＳＦ作家、伊藤計劃のＳＦ小説をアニメ映画化する「Ｐｒｏｊｅｃｔ Ｉｔｏｕ」の１作で、２００７年に刊行され「ゼロ年代最高のフィクション」と賞された伊藤計劃のデビュー作「虐殺器官」を映画化したもの。
本作は製作会社の倒産により完成が危ぶまれていましたが、その後、製作は新たに設立されたジェノスタジオに引き継がれ、他作品から大分遅れて公開となりました。
近未来、先進国では個人のプライバシーをも犠牲とした徹底した情報管理により、テロや戦争の恐怖から解放されていたが、新興国ではむしろ紛争が激化していた。
米軍の対テロ特殊部隊隊員のクラヴィス・シェパード大尉は、新興国に姿を現すと、その地に紛争をもたらし、虐殺行為を生む、と言う男、ジョン・ポールを調査するよう命じられる。
「虐殺の王」と呼ばれるジョン・ポールの足取りを追い、シェパードはチェコに飛んで、ジョンと親密な関係にあったと言う女性、ルツィアに接触するが……
小説「虐殺器官」は、話題となった当時に読んでいますが、そのSFとしての世界設定やアイデアは面白いと思ったものの、哲学的とも言える内容は自分にとっては難解に感じられました。
このアニメ映画版は、物語世界を大胆に整理して２時間の映画にまとめています。
語り口や台詞に難解さを残していますが、物語としてはかなり判り易いものとなりましたが……これはこれで原作からのファンには物足りなく思えるものかも知れません。
アニメーションとしての見せ場は現実の延長線上にある近未来の軍事作戦の様相で、その説得力のある設定には納得させられますし、人物の動きをモーションキャプチャーしたリアルなアクションも見応えがあり、これはアニメと言う枠を越え、近未来アクションサスペンス映画としても高い完成度を見せています――ここまで出来るなら、「ジェイソン・ボーン」的な映画を、アニメならば日本で作る事が出来るのではないでしょうか。
レイティングをＲ１５としたが故に出来た描写の容赦なさ、残酷さも特徴で、これは深夜枠でもＴＶ放送出来ないレベルではないかと思います。
物語中核となるのは、人間の脳には原始的な古い部分が残されており、それが虐殺などの残虐行為を引き起こすと言うもので、それが”言葉”によって励起される、と言うのが、やはり言葉の人、伊藤計劃らしい所。
現実に激しい言葉が、人々を分かち、民族を差別し、国をも分割する様を目の辺りにする現代において、その着眼点はいかにもＳＦ作家らしく先見の明があったと思わざるを得ません。
（２０１７年 ２月 ３日 横浜・ブルク１３にて）
（作品データ）
■監督
村瀬修功
■出演
クラヴィス・シェパード ・・・ 中村悠一
ルツィア・シュクロウポヴァ ・・・ 小林沙苗
ジョン・ポール ・・・ 櫻井孝宏
（その他のキャスト）
三上哲 石川界人 梶裕貴 大塚明夫
■コピー
地獄は、 この頭の中にある。
■Ｌｉｎｋ
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