人魚姫

　これは、「少林サッカー」のチャウ・シンチー監督の最新作。
　中国では大ヒットし、アジアにおける映画興行収入歴代１位を記録したのだとか。

　美しい自然の残る香港郊外の青羅湾。若き実業家リウは、資産家令嬢のルオランの支援を得て、この地を買収。一大リゾート施設を建設しようと目論む。
　その為に強力なソナーを設置し、青羅湾は死の海と化して、当局から埋め立て許可も取り付ける事が出来た。
　だが、その海は人魚族の住む海だった。行き場をなくした人魚族は湾外の難破船に潜み、人魚の少女シャンシャンを刺客としてリウを暗殺、開発計画を頓挫させようとするのだが……

　これは、名作「人魚姫」をモチーフに、現代中国が抱える環境問題を盛り込んだ映画です。貧しい暮らしから才覚だけで成り上がった金の亡者のような青年リウが、環境問題に目覚めて改心すると言う内容は、拝金主義の蔓延る現代中国への皮肉混じりの風刺……と言うような見方も出来ますが、この映画はやはりチャウ・シンチーのもの。
　香港映画ならでは「無厘頭」（香港流ナンセンスギャグ）を昇華させた、チャウ・シンチーならではの痛くて寒いギャグ満載の映画になっています。

　映画はプロローグから本編と関係のないコント紛いのエピソードで始まり、その後もギャグの連続――ただし、かなり寒いし、しつこいし、これは香港映画、と言うかチャウ・シンチー映画に慣れていないと笑えないかも知れません。
　音楽の方も、突如流れる「ゲッターロボ」に、「ドラゴン怒りの鉄拳」の主題歌をリウとシャンシャンがデュエットするなど、趣味全開でやってますから。
　女性に対して容赦ないのもチャウ・シンチーらしく、シャンシャン役の新人女優リン・ユンは、素っ頓狂なメイクで登場させられ、その後も、序盤のリウ襲撃の際には相当に痛い（ギャグではなく本当に痛い）シーンを演じ、クライマックスでもボロボロにされます。
　また、人魚と言いつつ半人半蛸の“タコ兄”なるキャラクターを登場させますが、このタコ兄が自分の足を料理する羽目になるシーンも可笑しい。ただ、これまたしつこいのですが。

　素っ頓狂なメイクで登場したシャンシャンは、リウの心が傾くにつれ可憐な表情を見せて観客も魅了。そして、それ以上に妖しい魅力を振りまくのはルオランを演じたキティ・チャンで、正に大人の女の魅力満開、と言う感じです。

　ＣＧのレベルは決して高くなく、正直、稚拙に感じる部分もありますし、登場人物の心理描写やストーリー展開もかなり荒っぽい。
　まぁ、それもチャウ・シンチーの味ですし、子供から大人まで笑って楽しめる映画で、これは大ヒットにも納得です。
　それにしても、そんな映画が関東で僅か３館での上映に止まるとは……
　

　（２０１７年　１月１３日　シネマート新宿にて）

（作品データ）

　■製作・監督・脚本

チャウ・シンチー　

　■出演

　シャンシャン　・・・　リン・ユン

　リウ　・・・　ダオ・チャオ

　ルオラン　・・・　キティ・チャン

（その他のキャスト）
　ショウ・ルオ

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