これは、イラストレーターの他に文筆家としても活動するみうらじゅんの原作小説を、イラストレーターの安齋肇が監督した異色の青春映画。
　出演はシンガーソングライターの前野健太、元宝塚歌劇団男役スターの月船さらら、人気ＡＶ女優の白石茉莉奈。

　男には特別な才能はないが、大学のロック研究会を経て、ひとりミュージシャンの道を歩んで来た。大学卒業後は妻と結婚して一児をもうけ、ささやかながら幸ある家庭を築いている一方で、学生時代からのファンでもある、愛人の薫子とのＳＭプレイを断ち切れずにいた。
　雪山でのライブに薫子を連れていった男の目に、観客席にいる妻の姿が飛び込んで来て……

　この映画、「みうらじゅんが今見たいポルノ」と言うコンセプトだそうですが、なるほど、音楽にＡＶに変態チックなＳＭプレイ、となるほどこれはみうらじゅんの世界。
　映画は、殆どが粒子の粗いモノクロ映像となっており、そのあたりもいかにもな“昭和・アングラアート”風です。
　その一方で、妻とのベッドシーンはパステルトーンのカラー映像となっており、ほとんどこれは現代ＡＶ。
　このシーンを含む、この映画での白石茉莉奈のかわいらしさは特筆もので、スィーツのような甘ったるい笑顔と言葉、それに柔らかで豊満な肉体、と、こんな嫁なら結婚生活も楽しかろうと思ってしまう存在感を見せています。
　でも、それに満足出来ないのが、変態の変態たる所以であり、平凡な日常と自分に苛立つように、そしてそんな自分を罰するかのように男はＳＭプレイにのめり込んでいくのです。

　クライマックスは、「レヴェナント」を彷彿とさせる、雪山での大熊との死闘となりますが、ここでＳＭグッズを駆使して大熊と戦う男の姿には唖然とさせられました。
　その後のラストシーンは、死闘を経て覚醒し、自分らしく生きる事を決めた男の覚悟なのでしょうが……狙い通り、それが「格好いい」ものであるかどうかは……


ＰＳ
　尚、これは三部作となる構想だそうです。最後には宇宙に出て行くと言うことですが……どうなることやら。　
　

　（２０１６年　１２月１２日　新宿ピカデリーにて）

（作品データ）

　■監督

安齋肇　

　■出演

　その男　・・・　前野健太

　妻　　 ・・・　白石茉莉奈

　薫子　・・・　月船さらら

（その他のキャスト）
　奥野瑛太　　信江勇　　Ｓｈｉｇｅ　　玉手峰人　　山本圭祐　　ウクレレえいじ
　田口かすみ　　岸波紗世子　　宮藤官九郎　　市川しんぺー　　星野恵亮　　桜井秀俊

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