われらが背きし者
これは、元ＭＩ６と言うキャリアを活かし、良質なスパイ小説を送り出すジョン・ル・カレの小説を映画化したもの。
イギリス人大学教授のペリーと弁護士の妻ゲイル。最近上手く行かない夫婦関係を修復しようと、休暇をとってバカンスに出掛けたモロッコの保養地で、ペリーはロシア人の男ディマと出会う。
妙に羽振りがよく、精力的なディマは、ペリーを彼の屋敷で開かれていたパーティに招待する。
そこでディマは自分がロシアン・マフィアの幹部であると明かして、ある依頼をペリーに持ちかける。それは、自分と家族が組織から命を狙われており、情報を引き渡すのと引き換えに英国への亡命と身柄保護をＭＩ６に求めたいと言うものだった……
ル・カレのスパイ小説は、彼の経験に基づく決して荒唐無稽にならない抑えた描写によるリアルさと、ひりひりするようなスリリングさが特徴とされ、それは映画としても同様で、ル・カレ原作のスパイ映画は地味ながらも外れなし、と言う印象です。
この映画、ル・カレ自身が製作も兼ね、カメオ出演までしていると言う力の入れ方なのですが……冷戦終了後の現代を舞台とする本作は、スパイものを期待するとちょっと肩透かしを食う印象です。
確かに、今や情報機関の敵は、国家ではなく国際犯罪組織、と言う図式は判りますし、荒唐無稽にしない為には、某スパイシリーズのような悪の秘密結社を登場させる訳にもいかず、ロシアン・マフィアの資金洗浄の企みを暴く、と言ういささかスケールの小さなものになっているのです。
勿論、スケールを小さくしたが為に却って現実味は増し、巻き込まれ型サスペンスの要素を持たせる事で観客の感情移入を促し、ＭＩ６内のごたごたなども絡めて、先の見えず互いに腹の探り合いをしながら、正体の見えない敵と戦う緊張感を演出、とサスペンス映画としての出来は確かに一級品。しかも、倦怠期の中年夫婦の再生、などと言う隠れテーマまで潜ませるとは……
主人公のペリーを演じるのはユアン・マクレガー。ただ、本作では巻き込まれ型の主人公と言う事もあってか、どうにもピリっとせず、物語を引きずり回す、ステラン・スカルスガルト演じるディマや、ＭＩ６内にて微妙な立場で舵取りをするヘクターの方が魅力的に見えてしまっていますが……
スパイ映画としては、いささか微妙な内容ですが、それでもサスペンス映画としては良質なもの。
ル・カレとしてはちょっと甘口な感じもしますし、家族を前面に押し出す内容も意外ではありましたが、それも現代を反映している、と言う所でしょうか。
（年 月日 にて）
（作品データ）
■監督
スザンナ・ホワイト
■出演
ペリー ・・・ ユアン・マクレガー
ゲイル ・・・ ナオミ・ハリス
ディマ ・・・ ステラン・スカルスガルド
（その他のキャスト）
ダミアン・ルイス ジェレミー・ノーサム ハリド・アブダラ マーク・ゲイティス ヴェリボール・トピッチ アリシア・フォン・リットベルク
マーク・スタンリー グリゴリー・ドブリギン マレク・オラヴェック カーチャ・エリザローヴァ パヴェウ・シャイダ
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