「ＫＴ」

　今日は、朝起きて天気もいいので箱根へと出掛けたら・・・箱根は雨。
　仕方がないので早めに切り上げて、映画を観に行きました。

　映画を観たのは、横浜西口名画座・・・が、先月末に改築されて、「ヨコハマ・シネマソサエティ」と言う、何だか渋谷の単館系劇場みたいな名前になってしまいましたが・・・ちょいと小綺麗になって、コーヒースタンドが新たに設けられた程度の変わりぶりで、ちょいと安心。(^^;

　この映画は、事実を元に描いたものです。

　１９７３年、夏。
　東京都内のホテルで、韓国・野党指導者の金大中氏（現・韓国大統領）が、何者かに拉致されると言う事件が発生。
　金大中氏は、数日後にソウルの自宅付近で解放される。
　事件現場からは韓国大使館の書記官の指紋が検出され、この事から、拉致に関して韓国政府の関与が考えられた。この事件にて主権を侵害された日本は、韓国政府に抗議を行うが、結局、日韓両国が政治的に妥協、事件の真相は未だ闇の中。これが、今でも謎に包まれた事件、「金大中氏事件」のあらましです。
　映画は、この事件を、主に拉致実行側より描いて行きます。
　この映画の主人公である富田は、陸上自衛隊・陸幕二部に所属し、朝鮮関係の情報活動に従事している。
　１９７３年のある日、富田は、上層部より民間人に偽装してＫＣＩＡに協力する事を命じられる。
　任務中に知り合った在日韓国人女性との関係などから、現・韓国政府とＫＣＩＡによい感情を持たない富田だが、「日陰者」と自らを蔑む自衛官にとってみれば、これは正に「実戦」。
　富田は、次第に任務の範疇を越えて事件に関わっていく・・・

　これは、勿論、フィクションと断ってはいるけれど、何しろ、関係者が存命と言うか、隣国の大統領なんだから、描写に関してはかなり微妙な舵取りを要求された筈。
　結果として、これは、日本映画としては珍しい、一流のポリティカル・サスペンスになっています。
　この種のドラマに弱い日本映画にしてみれば、かなりの本格派、しかも、立派にエンターテイメントしている力作だと思います。

　この映画、主人公は、富田だけど、本当の主役は、韓国大使館の一等書記官でＫＣＩＡエージェントのキムと言う男でしょう。
　この男を通して、国際社会の中で、「国家」と言うものを背負わされた男の悲劇と、その心情を描き出して行きます。
　反面、主人公である富田の、事件に関わる動機や、心情と言うものが、（表面的には描かれているにせよ）伝わって来ないのが惜しい、と感じられました。
　また、主人公と関係を持つ、在日韓国人女性、彼女の扱いがどうにも中途半端なのも惜しい所。
　ここを上手く使えば、人間としての感情や、自衛官としての国家への忠誠心よりも大事なものに全てを賭けた男の生き様がより一層鮮明になったと思うのです。

　しかし、それでもなかなかに見応えのある本格ポリティカル・サスペンスである他にも、画面上に、今から３０年前の日本を描き出してみせた事など、なかなか見所のあるこの映画、久々に「骨のある」日本映画に出会った、と言う感じです。

　（５月５日　ヨコハマ・シネマソサエティにて）

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