| 花芯 |
これは、瀬戸内寂聴が瀬戸内晴美名義で発表した同題小説を映画化したもの。
花芯、とは子宮の意味があるそうで、女性を突き動かす性衝動が子宮から生まれる、と言う作品テーマを表すものだと言いいます。
終戦の翌年、園子は脳溢血で倒れた父親の枕元で許嫁の雨宮と祝言を上げた。
やがて子供も生まれ、傍目には普通の夫婦に見えながらも園子は夫に愛情を持つ事はなかった。
雨宮の転勤により、京都に引っ越した園子は、そこで雨宮の上司の越智と出会い、初めての恋心を抱く。
やがて２人は肉体関係を結び、園子は女の悦びに目覚めて行くのだが……
女性に貞操が強く求められていた時代、女性にも性欲があり、それを解放したら……と言う作品は当時としては衝撃的で、この小説はポルノ小説と見なされ、瀬戸内寂聴は「子宮作家」と非難されて、その後数年に渡って作品を発表する事も出来なかったのだとか……。
もっとも、「女性にも性欲がある」などと言う事は、当たり前の話で、この映画も、今となってはその内容は不倫ものの昼ドラと大差ないのですが……
それにしても、瀬戸内寂聴、今でこそ人格者の面持ちですが、作中ではあるけれど「人の情を知らぬ」とまで言われる、そんな深淵を心内に潜ませていたとは人間判らないものです。
主演の村川絵梨は、正に固く閉じた蕾が妖艶に咲き乱れるようになる様を、これまでにない大胆な濡れ場を含めて見せるだけでなく、その“深淵”をのぞき込んだ心境を、視線と表情で演じ、見事なもの。夫の雨宮役の林遣都が正に“手玉に取られている”感じでした。
昭和２０年代から３０年代にかけて、今よりも女性が「自分を貫いて生きる」事の難しかった時代の中で見せた園子の生き様。
「女は子宮で動く」と言われる、男とは異なる価値観を持つ“女と言う性”を貫くそれは、多様な価値観が認められるようになりつつある現状の先駈けとも言えるのではないでしょうか？
（２０１６年 ８月１９日 テアトル新宿にて）
（作品データ）
■監督
安藤尋
■出演
古川（雨宮）園子 ・・・ 村川絵梨
雨宮清彦 ・・・ 林遣都
越智泰範 ・・・ 安藤政信
（その他のキャスト）
毬谷友子 藤本泉 落合モトキ 奥野瑛太
■コピー
覗いちゃいけない深淵を
覗いてしまったの――
■Ｌｉｎｋ
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