ハイ・ライズ
ＨＩＧＨ−ＲＩＳＥ

　これは、巨匠、Ｊ・Ｇ・バラードの同題小説を映画化したもの。
　原作は、近未来の高層住宅を舞台に格差社会を諷刺して描くＳＦで、映画は原作の作品設定や世界観をそのままに実写化した、パスト・フューチャー的なものとなっています。

　１９７５年、ロンドン郊外に巨大な高層マンションが建設された。施設内にスーパーマーケット、ブール、レストラン、学校、病院などの施設を備え、それ自体がひとつの自己完結した理想社会と謳われていた。
　そこに入居した医師のラングは、早速、住民のパーティーに誘われる。富裕層のリッチで享楽的な毎日……だが、彼は程なく、そんな理想社会の筈のマンション内おいて住民間で軋轢が生じている事に気づく。
　そして、マンションに起きた大規模停電をきっかけに、日頃の不満が爆発して……

　高層住宅においては、高層階の方が家賃が高額となり、入居者間での格差が生じる事がありますが……この物語が描くのはそんな事ではありません。
　この映画の巨大マンションは、世界の縮図であり、階層社会であるそれは、ささいなきっかけで瓦解する――ありがちなのはエネルギー問題だろう――と言うのが、バラードの卓見であり、その指摘は、エネルギークライシスが叫ばれる現代において、重要さを増していると言えるでしょう。

　そんな現代的なテーマを内包した興味深いテーマを持ちながら、その語り口は冗長で理屈っぽく、判りづらい。その辺りはバラードの原作そのまま、とも言えますし、同様に原作同様’７０年代にした舞台設定が、これまた現実味を削いでいるのも勿体ない部分です。
　また、インモラルで露骨な性描写に抵抗を感じる人もいるでしょうし、展開には盛り上がりやサスペンスを欠き、映画冒頭に荒廃したマンションの様子を見せてしまっているのも、この先の破滅が不可避である、とのネタバレになってしまい、興味を削ぐ要因となっています。
　（このシーンで焼かれて食われているのが犬だ、と言う事が判る辺りの展開は、イギリス人にはショッキングでしょうが……）
　
　そんな訳で、決して娯楽映画として観て面白い映画ではありますが、社会の破綻とは？と言うテーマに基づき、理詰めでシミュレートした本作は、その意図と寓意を読み取れば楽しめる映画となると思います。勿論、万人向けでないのは当然の事ですが……
　

　（年　月日　にて）

（作品データ）

　■監督

ベン・ウィートリー　

　■出演

　ラング　・・・　トム・ヒドルストン

（その他のキャスト）
　ジェレミー・アイアンズ　　ルーク・エヴァンス　　シエナ・ミラー　　エリザベス・モス　　ステイシー・マーティン　　ジェイムズ・ピュアフォイ
　キーリー・ホーズ　　ピーター・フェルディナンド　　リース・シェアスミス　　エンゾ・シレンティ　　オーガスタス・プリュー　　トニー・ウェイ

　■コピー

ようこそ 極上のハイ・ライフへ　

　■Ｌｉｎｋ

http://www.transformer.co.jp/m/high-rise/　

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