シン・ゴジラ
これは、１２年ぶり２９作目の日本版「ゴジラ」映画。
初代「ゴジラ」が昭和２９年公開、だから７月２９日に公開するなど、関係者の拘りと想いが結集した１本となっています。
クレジットされるキャストが豪華にも３２９人、総監督は「新世紀エヴァンゲリオン」の庵野秀明。監督・樋口真嗣、特技統括・尾上克郎とスタッフ・キャストとも力が入っています。
東京湾にて謎の水蒸気爆発が起き、アクアトンネルが崩落する事象が発生。
政府は対策協議に入るが、事なかれ主義の首脳部は効果的な策を打ち出せない。そんな中で、内閣官房副長官の矢口は「巨大不明生物」の可能性に言及するが相手にされない。
だが、程なく噴煙の中から巨大な尻尾が現れ、矢口の懸念は現実となる。
やがて、その巨大生物は多摩川の支流を遡って……
今度の映画は、これまで２８作の設定をリセットし、初代「ゴジラ」同様、全く未知の脅威として出現します。
しかも、最初の異変までが極短い。映画冒頭で、東京湾内から吹き上がる水蒸気を描いたら後は一気にゴジラの出現した東京の描写に集中して行きます。
そこから先の描写は、日本の特撮……怪獣映画として文句なしに望み得る最高レベル。
敢えて（と言っておこう）ミニチュアを使った特撮のように仕上げたＣＧが日本の怪獣映画らしさを見せる一方で、ＣＧである事を活かした現実の東京にゴジラが現れるのを大パノラマで見せる、今だから出来る映像の力。
自衛隊の協力の下、護衛艦から戦車、航空機までしっかり現物を見せて、現実味と迫力を出しているのもいい。
懸念されていたように、「エヴァンゲリオン」を連想させる部分があり、音楽の鷲巣詩郎が「エヴァ」そっくりの音楽を用意していたりもしますが……これは庵野秀明がオマージュを得意とする作家である事を考えれば仕方がない、と言うよりも芸として楽しまなければ損、とさえ言えるでしょう。
キャストも豪華で、ほんのチョイ役にまで名のある俳優を使っています。顔面の大アップは最初気になったけど、これもまた日本映画の伝統芸のひとつでしょうか。
ただ、石原さとみが米国特使と言うのは……本人、頑張って英語もネイティブっぽく喋ってはいるのですが、ちょっと浮き気味。ここは名の知られたアメリカ人女優を起用して欲しかったなぁ、と思う部分でした。
映画内容としても、これは正にゴジラ映画としての源流回帰。日本にとってのゴジラ映画とは、現在の日本の戦う“戦争映画”なのだと思います。
平和憲法により戦争を放棄した戦後日本が、全力を賭して戦う相手がゴジラなのです。
ゴジラは理不尽な暴力であり、避けられない自然の脅威であり、核の不気味さである……そう、自衛隊の活動を振り返っても判るように、日本は自然災害と戦って来たし、３．１１以降は放射能の脅威とも戦いました。そんな日本の“敵”の象徴としてゴジラは登場し、その時点の日本の総力を上げて立ち向かう……これぞ正に初代「ゴジラ」が持っていたコンセプトであり、それを甦らせた本作は世界中で日本にしか作れない「ゴジラ」映画となっています。
そんなゴジラに立ち向かう、政府の無策さと担ぎ上げられただけの首相の無能っぷりは現実の政治情勢に対する皮肉たっぷりの描写ですし、各省庁からの半端者、はみだし者を集めた異能集団（オタク集団）が、世界を相手に大見得切って東京を守り切る、と言うのも痛快。
ゴジラは架空の“敵”だけれども、それに対峙する日本人はあくまでリアル――政府は無能でも官僚は優秀で、そして、その無茶振りに応えてしまう民間の底力！――映画コピーの「現実 対 虚構」とはこの事か。
「この国はスクラップ＆ビルドで甦る」と言う言葉に、日本の力強さを滲ませたラストには思わず胸が熱くなります。
エンドロールの後、「終」の文字が出た所で劇場内で自然に沸き上がった拍手に思わず応じてしまう、正に渾身の日本映画。これは必見でしょう。
（２０１６年 ７月２９日 横浜・ブルク１３にて）
（作品データ）
■総監督
庵野秀明
■監督・特技監督
樋口真嗣
■准監督・特技統括
尾上克郎
■出演
矢口蘭堂（内閣官房副長官） ・・・ 長谷川博己
カヨコ・アン・パタースン（米国特使） ・・・ 石原さとみ
赤坂秀樹（内閣総理大臣補佐官） ・・・ 竹野内豊
ゴジラ ・・・ 野村萬斎（モーションアクター）
（その他のキャスト）
大杉漣 柄本明 高良健吾 市川実日子 國村隼 ピエール瀧 余貴美子
平泉成 矢島健一 浜田晃 手塚とおる 古田新太 モロ師岡 渡辺哲 諏訪太朗 光石研
藤木孝 嶋田久作 津田寛治 高橋一生 神尾佑 野間口徹 松尾諭 塚本晋也 原一男
犬童一心 緒方明 斎藤工 前田敦子 森廉 鶴見辰吾 片桐はいり 松尾スズキ 川瀬陽太
中村育二 小出恵介 三浦貴大 KREVA 橋本じゅん 加藤厚成 阿部翔平 黒田大輔
妹尾青洸 小林隆 大林丈史 小川真由美 原知佐子 粟根まこと マフィア梶田 横光克彦
■コピー
現実<ニッポン>対虚構<ゴジラ>。
■Ｌｉｎｋ
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