| マジカル ガール |
これは、アニメや歌謡曲など日本サブカルに精通したカルロス・ベルムト監督のデビュー作。
予測のつかないストーリー展開が評価され、サン・セバスチャン国際映画祭では作品賞と監督賞を受賞したそうです。
白血病で余命僅かと診断された１２歳の少女アリシア。父親のルイスは、アリシアが日本アニメ「魔法少女ユキコ」のコスチュームに憧れていることを知り、最期の願いを叶えようとするが、それは、不況で教師の仕事を失い無職の彼には高価過ぎて手が出ないものだった。
思い余った父親が、宝飾店からの窃盗を決意した瞬間、いきなり上から吐瀉物が降って来た。
それは、宝飾店が入る高級アパートに住む精神分析医の妻、バーバラのものだった。バーバラは、ルイスを呼び止めると自宅に招き入れて……
映画は学校の教室で教師の叱責を受ける少女がちょいとした手品を披露するシーンに始まり、そこから時間と空間を飛び越えて、短髪の透き通るような美少女が長山洋子の「恋はＳＡ−ＲＡ ＳＡ−ＲＡ」をバックに踊るシーンとなります。
この始まりから物語は先のまったく読めない展開を見せます。
映画はＢＧＭをほとんど入れず、長回しのカットも多い、ゆったりとしたテンポなのですが、伏線を張り、様々な仕掛けを施したその内容からは目が離せません。
そんな物語の骨子となるのは「愛」なのですが……この「愛」を所詮は身勝手なもので、詰まるところは自己満足に過ぎない、と突き放すのがこの映画の辛辣さ。
父親は、娘の想いを込めたメッセージを聞かず、盗み見た娘の日記から、見当違いの「夢」をかなえようと奮闘します。
その娘も、その想いとは別でありながら、思わず手に入れたものについつい「これだけ？」と言う顔を見せてしまいます。
そんな、父娘の間でも伝わらなかった「想い」が、係わる人たちの間で更に食い違い、波紋を広げ、物語を動かして行く――そうした、人のディスコミュニケーションによる、予測もつかない「愛」の悲喜劇――なるほど、これは高い評価にも頷けます。
終盤、登場人物は、皆、その嘘と欺瞞、身勝手さにツケを払わされる事になります。
（ひとりだけ、ツケを払わない人物がいますが、彼はモラルからは外れるものの、己の欲望に“正直”で“支払い”もしているから、と言うのもまた皮肉）
これも、ハリウッド映画ではあり得ない辛辣さですが……この因果応報ぶりにはある意味納得。
そして、映画冒頭への返答となる見事なラストカットには、「こう来るか」と唖然とさせられました。
（年 月日 にて）
（作品データ）
■監督
カルロス・ベルムト
■出演
ルイス ・・・ ルイス・ベルメホ
アリシア ・・・ ルシア・ポリャン
バーバラ ・・・ バルバラ・レニー
（その他のキャスト）
ホセ・サクリスタン イスラエル・エレハルデ エリサベト・ヘラベルット ミケル・インスア テレサ・ソリア・ルアノ
■コピー
魔法少女ユキコは悲劇のはじまり。
■Ｌｉｎｋ
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