| ロブスター THE LOBSTER |
これは、昨年のカンヌ国際映画祭で審査員賞に輝いた、いささかブラックな味付けの近未来ＳＦ。
監督は「籠の中の乙女」で注目されたギリシアのヨルゴス・ランティモス。
近未来。成人の独身者は身柄を拘束され、収容所で４５日以内にパートナーを見つけなければ動物に変えられてしまう社会となっていた。
妻を失って独身者となったデヴィッドは収容所のホテルに送り込まれる。ここでパートナーを見つけなければ、今は犬となってデビッドに飼われている兄のように動物に変えられてしまうのだ。（デビッドは変えられるならロブスターを選択した）
ホテルの周囲の森には収容所を脱走した独身者が潜んで暮らしていた。デビッドら収容者は、そうした脱走者を狩り出すのも義務のひとつで……
主役のデビッドを演じるのはコリン・ファレル。細身マッチョの印象のある彼が、別人のように太って冴えない中年男を演じますが、ハリウッド俳優のこうした肉体改造、まったくよくやるものだと思います。
女性陣はレイチェル・ワイズにレア・セドゥとなかなか豪華で、キャストだけ見ればＡクラスであるものの、これはなかなか珍妙な映画となっています。
まず、面食らうのは独身者を禁止する、と言う突飛な社会システム。十分な説明がないと言う事もあり、私は設定を了解して観始めたのですが、これを予備知識なしに観たら状況を把握するまで戸惑うのではないでしょうか。
また、笑えそうで笑えないユーモアのセンスや、暴力や流血の描写――ウサギを捌いて調理するも含まれるでしょうか――万人向きではない感じです。
内容としては欧米で見られるカップル社会（成人は公の場でカップルであることを求められる）をいささか極端な形でカリカチュアライズしたもの……と思って観始めたのですが、森に逃げ込んだ人々が構成する“恋愛御法度”の徹底した個人主義コミュニティを登場させた事から先が読めなくなります。
そして、表の“カップル社会”では恋愛から逃げていたデビッドが、恋愛禁止された途端に恋愛に目覚めると言うのも皮肉なもの。確かに、強制されるとやる気を失い、禁止されると燃え上がる――それは、確かにありがちなものかも知れませんが。
また、一方的なスタンスに立たない映画の立場も面白い所。何れにしても行き過ぎた社会は息が詰まる、様々な価値観があってこその人間社会と言う、大事だけど（特に日本では）忘れられそうな事を、ある価値観の両極端を描いて明示するのですから……
最後の選択もまた重い。それは、個人主義の人が言う「結婚も家族も自由を失う」と言う事をこれまたカリカチュアライズさせて描くもの。そして、その結果までは映画は描かずに終わります。
その結末を含め、これは描写のその先の様々な事を考えさせられる内容で、全く笑えないのに面白い、なかなか困った種類の映画です。
（年 月日 にて）
（作品データ）
■監督
ヨルゴス・ランティモス
■出演
デヴィット ・・・ コリン・ファレル
（その他のキャスト）
レイチェル・ワイズ ジェシカ・バーデン オリヴィア・コールマン アシュレー・ジェンセン アリアーヌ・ラベド
アンゲリキ・パプーリァ ジョン・C・ライリー レア・セドゥ マイケル・スマイリー ベン・ウィショー
■コピー
ここでは、４５日以内にパートナーを見つけなければ、あなたは動物に変えられます――。
■Ｌｉｎｋ
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