エスコバル
楽園の掟
これは、コロンビアの麻薬王パブロ・エスコバルを、彼の姪と結婚した青年の目を通して描くクライム・サスペンス。
カナダ人青年ニックは、兄夫婦と共に移住したコロンビアの海辺で、医療ボランティアとして働くマリアと恋に落ちる。
マリアの敬愛する叔父、パブロ・エスコバルは議員も務める地元の名士で大富豪。どんな事業をしているのか、と訪ねたニックにマリアは「コカイン」と事もなげに答えた。
やがてニックはマリアと結婚、エスコバルの“ファミリー”の一員となるが、その“ファミリー”こそ、コロンビア最大の麻薬カルテルであり、エスコバルはそのボス。コロンビア政府どころかアメリカからもマークされる南米最大の麻薬王だったのだ……
南米の麻薬カルテルに代表される犯罪組織の残虐さについては、これまで様々な形で報じられ、また描かれて来ましたが、“ファミリー”の一員どころか親類縁者に至っても必要とあらば躊躇なく切り捨て、女子供も容赦しないその非道っぷりはこうして突きつけられるとやはり衝撃的。
ニックを演じるのは「ハンガー・ゲーム」のジョシュ・ハッチャーソン。あのデス・ゲームを切り抜けたジョシュ・ハッチャーソンと言えども、この、エスコバルが作り出した恐怖からはまるで逃げ切れる感じがせず、終盤の展開はほぼホラー映画。正に尻を火で炙られるような切迫感と、背筋を這い上がる恐怖、何処にも逃げ場のないその感覚を描き出す、その手腕は秀逸なものと思いました。
そんな人の手による地獄を生み出したエスコバルを演じるのは、ベニチオ・デル・トロ。大幅な増量までして役作りをし、家族に注ぐ愛情と同じテンションで人を殺し、神をも恐れぬ傲岸不遜さえ見せるエスコバルを底知れぬ迫力と存在感たっぷりに演じます。
また、数百人の女優を尻目に映画初出演でヒロイン・マリア役を射止めたクラウディア・トレイザックの美貌にも惹かれます――確かに、この笑顔のためなら道を誤る男もいるだろう、と……
映画は、冒頭にニックとマリアの逃避行の企てとその結末を持って来て、そこから、ふたりの出会い以前に時間軸を巻き戻す構成。
それなりに長い時間軸を描くので、マズルカ方式のこの構成は判り易くはあるのだけど……その先にある展開を考えると、ここはむしろ時系列順に描き、楽園での暮らしを夢見て南国へとやって来たニックが、楽園と信じて踏み込んだ先にある恐怖にとらわれ、抜け出せなくなる様を描いた方がよかったように思いました。
（２０１６年 ３月１７日 川崎チネチッタにて）
（作品データ）
■監督
アンドレア・デイ・ステファノ
■出演
ニック ・・・ ジョシュ・ハッチャーソン
マリア ・・・ クラウディア・トレイザック
パブロ・エスコバル ・・・ ベニチオ・デル・トロ
（その他のキャスト）
ブラディ・コーベット カルロス・バルデム アナ・ジラルド
■コピー
神さえも従わせようとした男
■Ｌｉｎｋ
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