アンジェリカの微笑み
これは、２０１５年に１０６歳で逝去したマノエル・ド・オリヴェイラ監督が、１０１歳の時に撮影した幻想譚。
雨の夜、川の畔の小さな町で下宿する青年イザクを、川向うに建つ屋敷の執事が訪ねてくる。
アマチュアカメラマンだと言うイザクに、若くして死んだ娘アンジェリカの最後の写真を撮影して欲しいという依頼だった。戸惑いながらも屋敷を訪れた彼は、親族が見守る中で、白いドレスに身を包み、ソファーに横たわるアンジェリカの撮影を始める。その時、ファインダーの中でアンジェリカの目が開き、微笑みかけて来て……
この映画、監督が半世紀に渡って温めていた脚本だそうです。
２０１０年に撮影された映画は、舞台こそ現代としていますが、映画世界は未だ１９５０年代と言う趣であり、内容も古典的な幽霊譚。撮影手法も、フィックスのカメラ、二重撮影による合成など、今となっては古典的な手法が用いられ、正に１９５０年代の映画そのもの、と言う感じです。
時間をかけて練り上げられた物語に、１０１歳の監督が己のキャリアを注ぎ込んで作られた映画だけに、その内容は豊か。
繰り返される「３」の数字への拘り、悠然とした展開……そして、古典と現代、土着と洗練など、対照的な存在を対比させつつ描き、その中で本作のテーマとなる、生と死の、その境界を描いて行きます。
アンジェリカの微笑みを捉えたファインダーは、その後、死せし者、喪われた光景を映し出し、イザクを、生と死との境にある混沌とした世界に引き込みます――それは、現実を“生”とし、そこから切り取られた写真を“死”とした時、その狭間で、永遠に躍動と輝きを保ち続ける“映画”の事ではないのか、と――
この映画は、１００歳を越えた監督が、己の生涯をかけた映画そのものを描こうとしているように思えました。
ただ、内容はいささか観念的ですし、スローテンポで抑揚に欠ける展開のため、中盤以降、退屈に感じてしまいましたが……
（年 月日 にて）
（作品データ）
■監督
マノエル・ド・オリヴェイラ
■出演
イザク ・・・ リカルド・トレパ
アンジェリカ ・・・ ピラール・ロペス・デ・アジャラ
（その他のキャスト）
レオノール・シルヴェイラ ルイス・ミゲル・シントラ アナ・マリア・マガリャンエス イザベル・ルート
サラ・カリーニャス リカルド・アイベオ アデライド・テイシェイラ
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世にも美しい愛の幻想譚。
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