殺されたミンジュ
これは、「嘆きのピエタ」や「メビウス」のキム・ギドク監督の新作。
ソウルの繁華街。夜道を歩く少女、ミンジュが男たちに捕らえられ殺されてしまう。
それから１年。ある男が、軍服姿の男たちに突然拉致される。取調室に連れ込まれた男は問われる。
「去年の５月９日にお前がしたことを紙に書け。嘘をついたら殺す」。
男は昨年、少女殺しの仕事を請け負っていたのだ。「俺は命令に従っただけだ」と男は弁明するも聞き入れられず、凄惨な拷問にかけられ、供述書を書かせられると、解放された。
それから数日後。別の男が同じグループに拉致される。だが彼らはヤクザの姿をしていた……
実はキム・ギドク監督の映画を初めて観たのですが、これは随分と観念的な、寓意に満ちたものと思いました。
映画は様々な暴力に満ちており、その発端となるのが冒頭の少女殺し。それから少女殺し犯の一見幸せな日常を描き、そして、彼らを苛烈な暴力の渦に放り込みます。
ある者は「命令されただけだ」と言い訳し、ある者は罪の意識に捕らわれて自死し、またある者は「悪いのは命令をした奴だ」と責任転換し、その命令者は「それには大きな理由がある」と正当化します。
その姿と、その言葉は、歴史の中で、国家や権力者が“人間”を蔑ろにした後に現れるものと重なります。
それは、殺された少女の名が“民主（ミンジュ）”である、と言う点で、更に強調されるものとなります。
映画は、一方的に行使される暴力と、その暴力を振るうものが社会の中で不条理に虐げられる姿を交互に描き、その最大の不条理として、殺された少女が、グループのリーダーの娘である、と言う所に行き着きます。
ただ、映画は、この暴力と不条理の連鎖を中途半端に断ち切ってしまいます。
少女が何故殺されたのかは判らず、グループのメンバーが抱える不条理もまた解決されはしない――映画は混沌を深め、暴力の更なる連鎖を描いて終わります。
それは監督自身も、その行く先に“答え”を導き出せていないからかも知れませんが……それでも尚、問いを投げかける監督の想いには圧倒されます。
（年 月日 にて）
（作品データ）
■監督・脚本
キム・ギドク
■出演
マ・ドンソク キム・ヨンミン イ・イギョン チョ・ドンイン テオ アン・ジヘ
チョ・ジョリン キム・ジュンギ
■コピー
少女が葬り去られた日、良心はすべてこの世から消えた。
■Ｌｉｎｋ
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