あの頃
エッフェル塔の
下で
これは、アルノー・デプレシャン監督の新作で、彼の出世作「そして僕は恋をする」の前日譚に相当する映画。
主人公は「そして僕は恋をする」と同じポール・デダリュスで、冒頭で彼を演じるのも「そして僕は〜」と同じマチュー・アマルリック。映画は、「そして僕は〜」の十数年後のポールに始まり、過去を回想する形で語られて行きます。
人類学者のポール・デダリュスは、８年ぶりに帰国したパリの空港で身柄拘束される。所持していたパスポートと同じものが他にあり、自分と同じポール・デダリュスという人物が入国した履歴がある。このせいでポールに不法入国の容疑がかけられたのだ。
「あなたは以前パスポートを紛失し、再発行手続きを行いませんでしたか？」と問われたポールは、自分の若き日の出来事を思い出していく。
高校生の頃、親友とソ連旅行に出かけた際のちょっとした冒険。そして、大学生の時に出会った初恋の女性エステルとの、数年に渡る甘美で苦しい恋の思い出を……
この映画で、若き日のポールを演じるカンタン・ドルメールやエステル役のルー・ロワ＝ルコリネは、共に本作が初主演という新人。
カンタン・ドルメールは、マチュー・アマルリックと共通する線の細い、神経質そうな感じ。その一方で、ルー・ロワ＝ルコリネは美人ではあるけれど骨太でどことなく垢抜けない「田舎の美少女」という感じがして好対照を見せています。（エステル役は、最初「エール」主演のルアンヌ・エメラではないか？と思ってしまいました）
その対照っぷりがドラマ上にも活かされているのがまた上手い。
パリの大学から帰省中の故郷でエステルに出会ったポールにとって彼女は正に故郷そのもの。
戻るべき場所であるけれど、ポールの居場所はあくまで勉学に明け暮れるパリであり、その関心は“世界”へと広がります。
そんな“学問の徒”であるポールに必要だったのは、現代のポールの交際相手のような実務能力が高く、割り切った関係を結べる相手だったのですが――それでも故郷を捨てられないのと同じように、ポールはエステルは求め、エステルもまた田舎娘ならではの一途さでポールに依存する――そんな理屈ではない、不条理とも言える“恋”と言う想いをこの映画は描いて行きます。
これを、若さ故の愚かな恋路と、見る事も出来るのでしょうが、エピローグのエピソードにあるように、それをいい大人になっても引きずってしまうのが恋の魔力と言うものか……
ただ、この恋愛パートはよいとして、少年時代のエピソードと、もうひとりのデダリュスを生み出してしまった高校時代のエピソードの３つが上手く噛み合わず、機能していないような印象を受けました。
（原題を直訳すると「我が青春の３つの思い出」となるそうですが……これを「あの頃エッフェル塔の下で」と恋愛パートに的を絞ったタイトルにして、そこを前面に出した日本での上映方策にも頷けるものがあります）
それにしてもフランス人の判らないのは、４年間に及んだ交際期間の間に、ポールは７人、エステルは１５人の浮気相手と肉体関係まで結んでしまい、それを互いに知っているのに相変わらず相手を愛し続けようとする辺り。
恋愛とセックスに淡泊でしかも潔癖症の日本人なら一度の浮気で終わってしまいそうな恋人関係をこうまでなっても続けられると言う感覚にはさすがについて行けないな、と思ってしまいました。
（年 月日 にて）
（作品データ）
■監督
アルノー・デプレシャン
■出演
ポール・デュダリス（中年期） ・・・ マチュー・アマルリック
ポール・デュダリス（青年期） ・・・ カンダン・ドルメール
エステル ・・・ ルー・ロワ＝ルコリネ
（その他のキャスト）
アンドレ・デュソリエ ディナーラ・ドルカーロワ ピエール・アンドロー オリヴィエ・ラプルダ
エリック・リュフ テオ・フェルナンデス リリー・タイエプ ラファエル・コーエン
クレマンス・ル＝ギャル メロディー・リシャール
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そして君を想い出す
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