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これはスタイリッシュな映像が注目されている新進気鋭の女性監督、アナ・リリ・アミリプールの長編デビュー作。
ヴァンパイア少女と１人の青年の出会いを描くホラー・ファンタジーです。
“バッド・シティ”……その死と絶望に取り憑かれている街に暮らす青年アラシュは、漸く手に入れた自慢の愛車を、ヤク中の父の借金のカタに売人のサイードに取り上げられてしまう。
そのサイードは夜の街で、チャドル姿の美少女と出会い、家に連れ込むが、彼女の正体はヴァンパイアだった――
そして、愛車を取り返すためにサイードの家を訪れたアラシュは、変わり果てたサイードの骸と、アタッシュケースに入った大量の麻薬と現金を発見。愛車を取り返し、ついでに麻薬も頂戴したアラシュは、“ヴァンパイア”と名乗って売人稼業を始める。
そして、今度はアラシュの前にあの少女が現れて……
これはちょっと異色の映画。
全編モノクロで撮影された映画は、イランの何処かの街を舞台とし、イラン系の俳優がペルシア語で演じるのですが、これは実はアメリカ映画。撮影されたのもカリフォルニアだそうです。監督・脚本のアナ・リリ・アミリプールはイラン系ですが移民の子でイギリス生まれとのこと。
確かに、最近自由になって来たとは言え、この内容の映画をイランで撮影するのは不可能でしょう。
この映画の特徴は、何と言ってもそのスタイリッシュな映像。ビジュアルインパクトは高く､音楽の使い方もあって、ジム・ジャームッシュの映画を連想させます。
また、吸血鬼もの映画としても、吸血鬼のシンボルとも言える黒衣を、イスラム女性のチャドルに重ね、また吸血鬼の存在理由として悪事を働く人を襲う、としたアイデアはなかなかのもの。
キリスト教圏では、一般に悪魔とされる吸血鬼を、敬虔なイスラム教徒の女性の衣服を纏わせ、戒律の番人として描く――人が悪事を働くと現れる黒衣の少女――と言う辺り、監督の宗教観にもよるものと思いますが、新鮮に感じました。
ただ、弱点に思えたのは、物語の弱さ。
ビジュアルも、アイデアもいいのに、ドラマがどうにも弱く感じられました。
街の番人である少女、彼女がアラシュに何を見たか――未来への希望か、或いは叶わぬ恋か――終盤、猫を使ってサスペンスを盛り上げたのにも関わらず、ドラマチックな展開に至らなかったのを含め、語るべき内容の希薄さが残念でした。
（年 月日 にて）
（作品データ）
■監督・脚本
アナ・リリ・アミリプール
■出演
少女 ・・・ シェイラ・ヴァンド
アラシュ ・・・ アラシュ・マランディ
ネコ ・・・ マスーカ
（その他のキャスト）
マーシャル・マネシュ モジャン・マーノ ドミニク・レインズ ミラド・エグバリ
ロメ・シャダンルー レゾ・セイクソ・サファリ アナ・リリ・アミリプール
■コピー
彼女の牙は吸血鬼の中で最も美しい
■Ｌｉｎｋ
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