| KINGS | ＭＡＮ |
| キングスマン | |
これは、「キック・アス」のマシュー・ヴォーン監督のスパイ・アクション。
「００７」のジェームズ・ボンドのような、スーツをびしっと決めたスパイが活躍するアクションで、その「００７」シリーズが、「古い」とか「リアルじゃない」と言う批判によって失ったものを逆手に取ったような内容は痛快です。
ロンドンのサヴィル・ロウのある高級紳士服店「キングスマン」……その実態は、何処の国にも属さないスパイ組織・キングスマンの隠れ蓑だった。
そのキングスマンのトップ・エージェントのハリーは、かつて自分の命を救って殉職した同僚の息子、エグジーをスカウトする。
父を亡くした後、ロンドンの貧民街で街のチンピラとして過ごしていたエグジーだが、訓練過程では上流階級出身のエリート候補生に劣らぬ素質を見せていく。
そんな中、ＩＴ長者のヴァレンタインが、密かに人類抹殺計画を企てて……
この映画、軽いノリのアクション・コメディかと思うとさにあらず、オープニングは洒落を効かせているものの、冒頭のエピソードが仲間の死、と言う意表を突くシリアスな場面で始まります。
マシュー・ボーン監督は、「キック・アス」でも、主役のキック・アスよりも、ヒット・ガールが話題をさらったように、この映画でも主役だけでなく脇役が魅力的。その脇役と言うのが、予告編では主役のようだったコリン・ファース演じるハリーだと言うのですから、これはもう予想外の内容。この映画、作品内で引き合いに出されている「マイ・フェア・レディ」よろしく、貧民街の不良少年が、立派な「紳士」となる物語なのです。
そうした予想外の物語ではありますが、盛り込まれた内容は期待を裏切らないもの。
スーツを「我々の戦闘服だ」と言い切り、英国紳士の定番アイテム、紳士靴にこうもり傘は勿論、万年筆に時計や指輪にまでしっかりアイテムを組み込む辺りは面白く、紳士服店の隠しエレベーターが地下の秘密アジトに繋がっていると言う設定もあまりにベタすぎて嬉しくなってくるほど。
映画の中で、「かつてのスパイ映画はよかった」と語らせている事から判るように、これはもう確信犯で、往年のスパイ映画を、往年のガジェットと設定そのままに２１世紀に通じるものにアップデートしたものなのです。
「キック・アス」では当時１０歳のクロエ・グレース・モレッツにスタントなしでアクションを演じさせたマシュー・ヴォーン監督は、本作でも、アクションをこなす印象のないコリン・ファースに激しくもエゲつないアクション――と言うか殺し合い――を演じさせますし、義足がナイフとなっている美女・ガゼルのアクロバティックな動きなど、アクションの見せ場も充分以上。また、アメリカ人のヴァレンタインの主宰するディナーのメニューがマクドナルドのハンバーガーと、なかなかキツい洒落も利いてます。
その一方で、「マナーが“人間”を作るんだ」と言う重みのある台詞や、行いには必ず責任が付きまとうと言う因果応報をきちんと押さえた物語展開も好感の持てる所。
残酷なシーンもありますが、それもクライマックスの大逆転のシーンのように､描写の工夫でエグさを弱め、それでいて、ちゃんと“毒”を残すと言うのもマシュー・ヴォーンらしい部分でしょうか。
また、最近、予告編で内容を見せ過ぎる例が散見されますが、この映画は予告編もよく出来ており、思いっ切りミスリードさせられました。
そんな所も含め、これはもう「お見事！」と言うしかない、スパイ・アクションの傑作です。
しかし、大御所のマイケル・ケインとコリン・ファースが退場、新人のタロン・エガートンのみとなると、さすがに続編は難しいでしょうね……
ＰＳ
それにしても“後ろの穴”とは英国紳士として如何なものか。このせいで映画もＲ１５になってしまったではないですか。
（２０１５年 ９月１１日 にて）
（作品データ）
■監督
マシュー・ヴォーン
■出演
ハリー・ハート ・・・ コリン・ファース
ゲイリー・“エグジー”・アンウィン ・・・ タロン・エガートン
リッチモンド・ヴァレンタイン ・・・ サミュエル・L・ジャクソン
ガゼル ・・・ ソフィア・ブテラ
（その他のキャスト）
マイケル・ケイン マーク・ストロング ソフィ・クックソン マーク・ハミル ハンナ・アルストロム
ジャック・ダヴェンポート サマンサ・ウォーマック アレックス・ニコロフ エイドリアン・クイントン
■コピー
表の顔は、高級テーラー。しかしその実態は、世界最強のスパイ機関「キングスマン」。
■Ｌｉｎｋ
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