ピース オブ ケイク
これは、ジョージ朝倉の同名のコミックを映画化したラブ・コメディ。監督は田口トモロヲで、脚本は向井康介。
予備知識なく、原作コミックも未読だったので、また少女コミック原作のラブコメか、と思いましたが……その内容は辛辣で、女性心理を巧みに描いた物語もなかなか。監督も脚本も男性なのに、なんでこんな描写が出来るのか、と思って調べたら、原作のジョージ朝倉とはこんなペンネームですが女性なのですね。成程。
梅宮志乃は恋愛下手。その場の空気と快楽に弱い性分で、職場の同僚と交際していたのに、別の同僚とも関係を持ってしまい、それが恋人に知られてこっぴどく振られ、気まずくなって仕事も辞めてしまった。
心機一転、引っ越して生活を立て直そうとするのだが、転居早々隣室の男に微笑みかけられて思わず胸がときめいてしまう。しかも、その男は新たな勤め先となるレンタルビデオ店の店長だった。
彼の名は菅原京志郎。運命の出会い？と舞い上がる志乃だったが、京志郎には半同棲中の謎めいた彼女がいる。だが、ある日、その彼女が姿を消してしまい……
志乃を演じるのは多部未華子。京志郎役には綾野剛。その他に木村文乃、松坂桃李、菅田将暉、光宗薫、柄本佑、峯田和信と、作品的に若手中心になるのは当然ながら、主役級を演じられる俳優を揃えた豪華なキャストとなっています。
その中で、やはり最大の存在感を放つのが多部未華子。
一見、大人しげな外見ながら男なしではいられない“隠れ肉食系”女子（男ならばさしずめロールキャベツ系男子と言われる所でしょう）と言う今までない役柄。映画冒頭から、胸をはだけられて男に組み敷かれ、その後、下着姿でピンクローターを洗う、と言う、今まで見せた事のない姿を演じます。美人過ぎず、しかも流されやすそうな志乃は、男にとって「都合のいい女」で、こう言う女こそちやほやされる、と言う設定も女性ならではの見方ですし、恋愛関係が長続きしない理由として、付き合うと「面倒臭い女」であると言うのもまた同様。そんな役柄でありながら、どこか品があり、崩れた感じに見えないのも多部未華子ならではでしょう。
これまで、彼女ならではの出演作のなかった多部未華子ですが、この映画は彼女の代表作になるのではないでしょうか。
コミック原作でありながら、内容的に対象年齢はやや高め。少女マンガ、と言うよりレディスコミック的な感もあり、性愛描写などは意外と濃厚。この辺り、田口トモロヲ監督の“中年男的な好色さ”が出ているように思いますし、綾野剛もよくそれに応えてこうしたシーンに不慣れな女優からいい演技を引き出しているように思いました。
映画は、恋のときめきを謳い上げるだけでなく、そのどろどろした部分をも含めて、ありのままに描いて行きます。
そして、人恋しさや日常からの逃げ道として恋愛に溺れていた志乃が、ひとりの人間として自分の人生を生きるようになる、ビルディングストーリーにもなっている辺りもいい。
そして、最後に、それでも「好き」と言う気持ちを描いて「人を好きになるってサイアク」と言わせる物語は、決して子供向けではありません。大人も納得の、ホロ苦くて甘い、青春ストーリーは思っていた以上に見応えがありました。
（年 月日 にて）
（作品データ）
■監督
田口トモロヲ
■出演
梅宮志乃 ・・・ 多部未華子
菅原京志郎 ・・・ 綾野剛
（その他のキャスト）
木村文乃 松坂桃李 菅田将暉 光宗薫 柄本佑 峯田和信 中村倫也
安藤玉恵 森岡龍 山田キヌヲ 宮藤官九郎 廣木隆一
■コピー
大キライなのに、大好き。
■Ｌｉｎｋ
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