ナイトクローラー
これは、“報道ギャング”とも言われる事件・事故専門のパパラッチを取り上げた社会派サスペンス。
監督・脚本は本作が初監督作となるダン・ギルロイですが、彼は「ボーン・レガシー」のトニー・ギルロイ監督の弟で、双子の兄が本作の編集も手がけたジョン・ギルロイ、父はトニー賞受賞の戯曲家、妻は本作に出演している映画女優のレネ・ルッソと言う映画一族の一員。そのせいもあってか本作はデビュー作らしからぬ出来映えで、アカデミー賞にもノミネートされました。
ロサンゼルスで金物窃盗などしながら孤独に暮らすルイス・ブルーム。
ある夜、自動車事故の現場に遭遇したルイスは、そこに駆けつけてカメラを回す男たちに出会う。彼らはＴＶニュース向けに事故映像を撮るパパラッチだった。悲惨な映像がＴＶ局に売れると知ったルイスは、早速、ビデオカメラと警察無線を手に入れて開業する。
持ち前の無神経さでカージャック事件の現場を撮影したのが初仕事になったが、血まみれの被害者の姿を映した映像はいきなりＴＶ局で買い取って貰えた。
ルイスは若いアシスタントを薄給で雇い入れ、より効率的に、より刺激的な事件や事故の素材を量産するようになるが……
これは、新世代と言うか現代ビジネスの一面をいささか露悪的に切り取った社会派映画。
連想したのは、「ソーシャル・ネットワーク」や「スティーブ・ジョブス」ですが、アメリカン・サクセスストーリーのヒーローでもある彼らに対しては露悪的描写も限界がありました。しかし、この映画が取り上げたパパラッチと言う連中は芸能界に生きる人間にとっていい印象を持ちようがなく、それだけに思いっ切りエゲツなく描かれています。
この映画の主人公ルイスは、キャリアもコネもなく、インターネットで独学して知識だけはあるものの、孤独で対人関係を築けず、それ故に人の織り成す社会の中で必要な、倫理感や人情を失っています――或いは、サイコパス的な人格で、それらを最初から持ち合わせていないのか……
そんな彼が、なにもないスタート地点から、己だけを頼りに成功の階段を上がって行くのには、確かに面白さがあります。
そして、成功してステップを上がると共に要求も厳しくなり、ライバルとの競争があり、最後には遂に一線を越えるサスペンスがあり……派手ではないものの、クライマックスにはカーチェイスもアクションもあって娯楽作品としても水準以上なのも確かでしょう。
ルイスを演じた、ジェイク・ギレンホールは、元々ギョロ目の俳優ですが、その目がさらに目立つように、１２kgも減量してルイスの異相を作り出しました。虚無を湛えたその眼差しは、爬虫類的な感情の読み取れない不気味さを産み、印象を強めています。
その目が見つめ、目指すのはただ“成功”のみ。しかし、その成功とは一体、何なのか――。
ルイスが応えているのは、刺激を求める大衆の要望であり、大衆が彼を生み出したのです。
倫理感もなく、良心をも捨て去って、ただ刺激を求めるルイスを非難するならば、その結果を彼に求めた大衆にも責があります。
もっと刺激を、もっとよいものを、もっと安いものを……と、大衆の要望に応じる現代ビジネスも同様ではないのかと、殊更露悪的に描いたルイスの姿を通して、それを観客に訴えます。
目標達成のために、大事なものを捨て去ったその姿は、現代のブラック企業……いや、多くの企業にも重なるもので、ルイスのような存在こそが現代社会、つまり我々自身が求めるものではないのか、と……
（年 月日 にて）
（作品データ）
■監督
ダン・ギルロイ
■出演
ルイス・ブルーム ・・・ ジェイク・ギレンホール
ニーナ・ロミナ ・・・ レネ・ルッソ
（その他のキャスト）
リズ・アーメッド ビル・パクストン マイケル・パパジョン ケヴィン・ラーム アン・キューザック
マイケル・ハイアット ケント・ショックネック パット・ハーヴェイ
■コピー
他人（ヒト）の<破滅>の瞬間に、カメラを持って現れる――
■Ｌｉｎｋ
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