進撃の巨人
ＡＴＴＡＣＫ ＯＮ ＴＩＴＡＮ
これは、２００９年より連載開始され、第３５回講談社漫画賞少年部門に輝いた諫山創の人気コミックを、平成「ガメラ」シリーズの特撮監督であり、「ローレライ」や「日本沈没」を手がけた樋口真嗣監督により映画化した２部作の前篇。
突如出現した謎の巨人たちに、人類の大半は喰われた。文明は後退し、生き延びた人類は巨人の侵入を防ぐ３重の壁を築いて巨人達から身を守る事になった。
最後の巨人の出現から１００年。穏やかに過ごす日々の中、エレンは、壁の向こうの世界に憧れ、現状に閉塞感を覚えていた。
そんなある日、幼なじみのミカサ、アルミンを誘い外壁へと向かったエレンは……
連載開始より６年、１７巻にもなる長編となった原作は未だ完結には至らず、スケールを拡大して進行する物語をそのまま映画にするのは到底不可能です。
そこで、「ＧＡＮＴＺ」の渡辺雄介と共に映画評論家の町山智浩に、原作者も加わって原作を大胆に脚色、映画はその内容を大きく変えたものとなりました。
状況からしてその改変はやむを得ないものであり、インパクトの強かった原作コミックス２巻までを仕立て直した、この前半の設定と構成は、後編の風呂敷の畳み方次第ではあるものの、合格点の与えられるものだと思います。
出演者が全て日本人となる事から、原作の中世欧州の城郭都市と言う舞台設定を大きく変えた壁の中の街の世界観の構築は期待以上でしたし、その壁を壊す超大型巨人の登場シーンは大迫力。
その後現れる、顔も体型もバラバラな巨人達の襲撃、そして、人々が貪り喰われる凄絶なビジュアルを、ＰＧ１２のレイティングの中で描いた辺りは大したものです。
また、巧みに再現された立体機動装置を使ったアクションはなかなかです。
特筆すべきはやはり、この巨人達の襲撃と、エレンの変貌した巨人との戦い。
この辺りは原作以上の迫力で見応えもあり、そして、樋口真嗣監督のやりたかった事がよく判るシーンとなっています。
それはズバリ「ウルトラマン」。
街を襲う巨人（＝怪獣）と、主人公の変身した巨人の戦いとは正にそれであり、変身時間に制限がある所までそのままです。
また、ＣＧだけに頼らず、ミニュチュアと特殊効果（ＣＧ）を組み合わせた日本特撮の伝統芸を発展させた内容にも注目ですし、世界遺産となった軍艦島でのロケで撮影した廃墟の様子もまた見所のひとつだと思います。
出演者は、やはりハンジを演じた石原さとみの弾けっぷりが最高で、これは見事なもの。
また、ミカサ役の水原希子もビジュアル的にはいい線を行ってます。
と、ここまでは誉めましたが、この映画を誉めきれないのは、これから書く部分が余りに酷い、と言う事に尽きます。
それは、演出とシナリオ。
劇場版オリジナルキャラのシキシマの人物像は素っ頓狂ですし、兵団一の実力者でありながら、同胞が危機に陥り次々に殺されて行くのに、したり顔で解説するだけ、と描写されるのも如何なものか。
しかも、製作陣は、それが「格好イイ」と思っているようなのですからなすすべ無し、です。
廃墟内で、２組の男女がエロい事に及んでる最中に巨人に襲われるとか、仮にも軍隊組織なのに、命令もないのに隊列を離れ、その結果、危機を呼び込んだのにお咎めなし（いや、咎めた男がＫＯされたか）とか、どうにも理解出来ない展開と演出が多すぎます。
他にも、壁の外の調査兵団の拠点に進出するのに、巨人達の寝ている夜のうちに向かう、と言う設定なのに、途中でわざわざ装甲車を止め、徒歩で拠点に向かう、と言う不可解なシーンもありました。この辺り、士官が新兵を囮に使う、と言う台詞のひとつでも入れるだけで大分違うと思うのですが……
その癖、アミルンが喰われそうになるシーンなど、結果が判っているのに延々と映すだらだらした展開もあったりと、説明すべき内容を語らず、意味の無い所で尺を使う、めりはりの感じられない演出とシナリオには苛々させられっぱなしでした。
まぁ、渡辺雄介は「ＧＡＮＴＺ」も酷かったですからね……この名前が脚本にあった時点で覚悟しておくべきだったかも知れません。
キャストにも不満があって、武田梨奈の起用があれでよいのか？確かに、最後に彼女らしい見せ場はちょっとだけありますが、それにしたって、そこに至る経緯に説得力がありません。
「意表を突くキャスティング」と自画自賛していたりもするようですが、そんなのは自己満足でしかないように思います。
後半の公開は来月。
原作未完なのにとりあえず畳まなければならない状況で、この出来映えの前半から立て直す事が出来るのか？期待して待ちたいと思います。
（２０１５年 ８月 ６日 １０９シネマズ川崎にて）
（作品データ）
■監督
樋口真嗣
■出演
エレン ・・・ 三浦春馬
ミカサ ・・・ 水原希子
アルミン ・・・ 本郷奏多
シキシマ ・・・ 長谷川博己
ハンジ ・・・ 石原さとみ
ジャン ・・・ 三浦貴大
（その他のキャスト）
桜庭ななみ 松尾諭 渡部秀 水崎綾女 武田梨奈 ピエール瀧
國村隼 KREVA 高橋みなみ 諏訪太朗 橋本じゅん 仁科貴
原知佐子
■コピー
世界は、残酷だ。
■Ｌｉｎｋ
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