私の少女
これは地方の小村で、韓国の抱える社会問題に翻弄される女性たちの姿を描いた社会派映画。
監督は、本作で劇場用長編映画デビューを飾る事になった、韓国では珍しい若手女流監督のチョン・ジュリ。
小さな海辺の町の派出所に、若い女性のキャリア警官、ヨンナムが所長として赴任して来た。
彼女は赴任早々、１４歳の少女、ドヒと出会う。
実の母が失踪したドヒは、血の繋がりのない継父のヨンハと、その母親から日常的に暴行を受けていたが、老人ばかりの村で、数少ない壮年の働き手であるヨンハの横柄な態度は容認され、ドヒへの暴行も見
て見ぬふりをされていた。
ヨンナムは、そんな状況を打破すべくひとり立ち向かうのだが、ヨンハとは事ある事に衝突して……
この映画、韓国の国際派女優であり、日本映画への出演歴もあって知名度も高いペ・ドゥナを主役にしているので、日本公開されましたが、これは本来、韓国国内向けの映画でしょう。
地方に行くと強まる、韓国ならではの血縁社会、女性への蔑視や外国人差別、と言った、本来であれば余り知られたくないであろう韓国社会のダークサイドな一面にスポットライトを当て、それに翻弄され、
虐げられる女性の姿を、自らも女性のチョン・ジュリ監督は、抑制されたタッチで描いて行きます。
血縁社会だからこそ、血の繋がりのない娘を虐待するのも容認され、不法滞在の外国人から搾取するのも当然と考えられます。何故なら、その土地に住み、血縁で結ばれた者のみが“仲間”であり、それ以外
の者は排除し、あるいは利用出来るだけ利用するのだ、と言う共通意識があるからです。
ヨンナムは、ソウルから来た余所者で、女性なのに警視の階級を以て、所轄の警官を動かす事で男たちから反感を買っています。しかも、性的マイノリティだと言う事が知られ、ピンチに陥ります。
そして、訴えられ拘束されたヨンナムの取り調べを、セックスと言うデリケートな問題を問うのにも関わらず取り調べ室でなく他の警官（勿論、全て男性です）が聞き耳を立てる事務所で行う、と言う描写を
以て、韓国が女性を、そして弱者をどのように扱うのかを見せる辺り、問題提起だけに止まらない、鋭い批判の意図があるように思えます。
ただ、チョン・ジュリ監督、初の長編と言う事もあってか、エピソードの種々選択、それに映画編集がいまひとつ。
シーンの繋ぎに疑問を感じる部分もありますし、ヨンナムのアルコール中毒症が、物語内で有効に機能していないのも気になります。
（酔っては暴れるヨンハの酒癖の悪さと比較して描けばより物語に深みが出たのではないか、と……）
ヨンナムを演じるペ・ドゥナは相変わらずの年齢不詳っぷりで、日本で言えば広末涼子といい勝負。警察の正装も凛々しく美しいのですが、なるほど警視の階級には不釣り合いに見え、そこが男たちの反感を
買うと言うのにも納得です。
ドヒ役のキム・セロンも難しい役を体当たりでよくこなしています。暴行は受けるは、脱ぎのシーンもあるわで、その内容を見れば、最初は出演オファーを断った、と言うのも判ると言うもの。
クライマックスとなるドヒの反撃はこれまた強烈。“１４歳の血の繋がらない娘”と言う、これまでドヒを苦しめていた弱みを最強の武器に変えてヨンハに致命的な一撃を加える、その逆転劇には唖然としま
す。
ただ、それは社会的問題として提起すべきものを、エンターテイメントとしての映画の中に落とし込み、その“毒”を薄めてしまったようにも思えました。
（２０１５年 ６月６日 シネマジャック＆ベティにて）
（作品データ）
■監督
チョン・ジュリ
■出演
ヨンナム ・・・ ペ・ドゥナ
ドヒ ・・・ キム・セロン
ヨンハ ・・・ ソン・セビョク
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