夫婦フーフー日記
これはライターの清水浩司が妻・睦の闘病生活を綴ったブログを、川崎フーフ名義で書籍化した「がんフーフー日記」を映画化したもの。
この「がんフーフー日記」は、以前にＮＨＫでドラマ化されており、その時にはドキュメンタリー仕立てで、夫婦も実名で登場していたのに対し、この映画版は、思い切った脚色がなされています。
大学時代に出会った浩太と優子は、その後１７年を「友達」として過ごした。作家志望の浩太は、出版社に就職、執筆活動を続けていたが、悉く落選し続け、落選する度に「とにかく書け！」と優子に励まされるのだった。
そんな優子が実家に戻り、「見合いするかも」と言った時、浩太は漸く結婚を決意する。
引っ越し、入籍、妊娠、と慌ただしく時間が流れ、その中で体調を崩した優子が病院で診察を受けるとガンである、と告知される。子供を早期出産し、ガンとの闘病生活が始まったが、治療のかいなく、優子は子供を残して世を去った。
しかし、浩太の目には、死んだはずの優子がまだ目の前に見えている。しかも生きているかのように。これは幽霊？それとも自分の心が生み出した幻影なのだろうか？
この映画の最大の特色は、死んだはずの優子が現れて、浩太にだけ見えると言う部分にあります。
しかも、この死を超越した存在になった優子は、時空を自在に行き来し、浩太と共に、夫婦のこれまでを振り返り、ブログに書かれた嘘にツッコミ、ブログに書けなかった真実に向き合ってみせるのです。
確かにこれはいいアイデアで、死んだ本人が愁嘆場で茶々を入れるようでは泣くどころではなく、喜びのシーンも遠目に見れば寒い限り。「人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇である」と言うチャップリンの言葉そのまま、人生を客観視することで、普通に映画化したら“お涙頂戴”の難病ものにしかならなかった物語を、笑って泣ける人情喜劇へと昇華させました。
そんな浩太と優子の夫婦を演じるのは、佐々木蔵之介と永作博美。
映画序盤、大学生を演じる佐々木蔵之介はさすがに厳しいものがありますが、永作博美のかわいらしさはどうしたものか。さすがに大学生には見えないけれど、２０代と言われればそうかな、と思える程です。
また、能面で目の死んでる佐々木蔵之介と、表情のくるくる変わる永作博美の丁々発止のやりとりも面白く、犬も喰わないはずの夫婦喧嘩をコントのように笑って見られるようにしてしまうのも大したもの。
あと、映画好きには、映画内で様々な映画が出て来るのにも注目。
「トイ・ストーリー３」で涙を誘い、みなが集う結婚式に「『ビッグ・フィッシュ』だな」とか……
まぁ、その結婚式を「余命一ヶ月の花嫁」と言ってしまうのはさすがに縁起でもない、と思いましたが。
この映画が描くのは、実は「書く」事を生業とする者へのメッセージ。
何があっても書け、書き続けろと言うのはまさにそれですし、本当に悲しい事は勿論、実は嬉しい事も「書けない」と言う書く心情を描くのは、Ｗｅｂ日記やブログなどで「書く」事の機会が増えた現代人には共感を得やすいのではないでしょうか。
また、浩太が優子と共に時空を行き来するものまた「書く」事の魔法――「書く」事で時間を止め、それを読む事で、その時の思いが甦る――を示しているのでしょう。
誰にでも「ユーコ」がいる訳ではないけれど、それでも書け、書き続けろと言う、物書きへの応援メッセージは心に響きました。
（２０１５年 ６月５日 横浜ブルク１３にて）
（作品データ）
■監督
前田弘二
■出演
清水浩太 ・・・ 佐々木蔵之介
清水優子 ・・・ 永作博美
（その他のキャスト）
杉本哲太 佐藤仁美 高橋周平 宇野修平 小市慢太郎
大石吾朗 吉本選江 並樹史朗 梅沢昌代
■コピー
１７年間友だちで、
１年ちょっと夫婦で、
そして、アイツは、
９ヵ月だけ母親だった。
■Ｌｉｎｋ
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